2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

タイトルにだまされる

小林信彦のエッセイ、特にコメディアンについての本がとても面白い(これはみんな知っているかも)。 『おかしな男 渥美清』(新潮社、2000年)、『名人―志ん生、そして志ん朝』(朝日選書、2003年)など、繰り返し読んでいます。でも今回出た『日本の喜劇人…

『インヴィジブル』の難しさ

オースターの作品はある意味でいつも語る事が難しいとも言える。前項であの懐かしい青春小説も言える『ムーン・パレス』(1989)と同様に1960年代を描きつつ、『インヴィジブル』は1960年代の苦い思い出を40年近くたってから苦い懐古の物語だ。 語り手の視点…

Salaam Salaamを聴きながら

少しオースターから離れて。 「『インヴィジブル』の難しさ。」というタイトルで書いていて、けっこうあらすじに時間を取られる。それで中断。 難しいのは作品だけでない。書評的な文章ならあらすじは軽く、評価の方に重きをというスタンスでいいけれど、こ…

オースターの『サンセット・パーク』は面白い

オースターの2000年代の作品を『ブルックリン・フォリーズ』(2006)、『闇の中の男』(2008)、『インヴィジブル』(2009)と読んで、2010年に突入した後の『サンセット・パーク』(2010)も読んだ。 『インヴィジブル』は今さっき読み終えたばかりだから、…

願望思考と答責性

今朝の朝日の朝刊に掲載された井上達夫さんという法哲学者の専門家のインタビューの紹介です。 「願望思考」の方は、政治の役割は人々が見たくない現実を冷静に見据える事なのに、こうあってほしいという「願望思考」ばかりで、危機の実相を直視しようとしな…

日本語は亡びるのか

この刺激的な題名は、何度も取り上げてますがまた『ユリイカ』の2009年2月号の特集タイトルで、もちろん水村美苗の日本語が『亡びるとき』(2008年)の出版を受けてのものです。で、なぜ僕かこれをかというと書棚のオースターの上の段にあったのと、「お、久…

小津とオースター

あまりにも無理やりな組み合わせのようでいて、実はオースターの書いた『闇の中の男』(2007年)で主人公の老人が孫娘と家でたくさん映画を見るですが、そのうちの1本が『東京物語』。しかも6頁も説明と感想が書かれていました。一つ小さな間違い。大坂志郎…

失踪/消失/逃亡@オースター

『NY三部作』だけではなく、オースター作品を順番に読んでいくような気がします。 で三部作の最後『鍵のかかった部屋』について、訳者あとがき(白水社、1989年)がとてもコンパクトに正確に『鍵のかかった部屋』評がまとめられています。単なる翻訳家(すい…

だまされた(*^-^*)

少しオースターが続いたので、ちょっと違うテーマで。たいした事のない話ですが。 一昨年つくった寄せ植えの鉢が6つ、少し残っているのもあります。 かわいいのでおいてありますが、今年の4月はその緑が、特に新緑がきれいで、ウツギかなと思っていました。…

『幽霊たち』とフィルム・ノワール

オースターの『NY3部作』の2作目『幽霊たち』の探偵ブルーがもっとも好きな映画が『過去を逃れて』。僕も好きで、2013年の12月19日のブログで書いて本にも入れました。3作目の『鍵のかかった部屋』では主人公が右手の指にLOVE, 左手の指にHATEと入れ墨をした…

『シティ・オブ・グラス』と発見

ポール・オースターのCity of Glass (1982)を柴田元幸訳で再読しました。1989年に角川から訳が出ていますが、2009年に柴田訳が出ました。けっこう面白い。サブテキストはデヴィッド・マッケリーの漫画(講談社、1995年)。これも悪くない。 クィンという主人…

ブルックリンに帰る

ポール・オースターの2005年発表『ブルックリン・フォリーズ』(Brooklyn Follies, 新潮文庫、2020年)を読んでみました。訳者の柴田元幸さんもあとがきで書いているように、ゆるくて喜劇的で読みやすい。ブルックリンで生まれた中年の男が56年ぶりにブルッ…

Smoke & Blue in the Face

ポール・オースターと映画の関係。1993年の『偶然の音楽』は原作提供のみ。1995年の『スモーク』は原作・脚本。同年の『ブルー・イン・ザ・フェース』は共同監督も。そして1998年の『ルル・オン・ザ・ブリッジ』は初の単独監督作品になります。あと2001年に…

オースターと伝統の脱構築

オースターの初期の小説を読み直して、あまり面白くないなぁと思っていたら、前項でふれた1999年の『ユリイカ』の対談を読んでがぜん興味がわきました。巽孝之さんとラリー・マキャフリー。ラリーもいいけれど、特に巽さんのコメントがいいのです。マーカー…

オースター、再び

アメリカの作家ポール・オースター(1947年生まれ)についての発表の司会をする事になってしまった。 たいぶ昔、正確には1994年に学部の教授の退官記念論集に『NY三部作』について書いたんです。忘れたいけど。その後2000年代にやはりオースターについての発…

文学って何?

3年前の3月の退職時に最終講義っていうのをやりました。その時の質問に「文学とは?」というのがあって、これはあまりに大きな問題なので、またはそれをコンパクトに答える能力がなくて、「ここで答えるには大きすぎる問題なので」とか言って逃げてしまいま…

土つくり

手稲山の山頂の雪が解ける頃、5月中旬から下旬が苗を植える時期だと近くの野菜や苗を売るお店の青年が教えてくれました。そろそろのようです。 で苗を植える土を作る前に少し酸性化した土に石灰をまく必要が生じました。と言うのは昨年までは全部で7畳くらい…

間に合った

今日12日から札幌は飲食店での酒類の提供は30日(?)まで禁止。お昼に蕎麦屋か中華のお店でビール+日本酒/紹興酒/ワインを飲むのを楽しみにしている者にはつらいお達しです。 実は(と言うほどの事もないですが)きのう出かけてきました。街まで出るのは…

ストロークが長い

イタリアのジャズ・ピアニスト、アントニオ・ファラオ(1965~)を聞いています。どうして買ったのかよく覚えていないのですが、最初はBlack Inside (1999)。9曲目のDumb Showがいいです。「だんまり芝居」という事ですが、静かに盛り上がる。物語のパーツを…

後退と前進

う~ん、前回の「後ろ向きで前に進む」と似たようなタイトルになってしまった。 後退はまん防で、5月20日からの予定の対面授業が難ずかしくなった事です。学会仲間の話では、5月いっぱい休講の大学もあり、対面授業を強行する大学もあり、様々です。ま、6月…

後ろ向きで前へ進む

坪内祐三は2002年44才の時に『後ろ向きで前へ進む』(晶文社)を出していますが、この福田恒存についての卒論?を含む初期の評論集は靖国、植草仁一、プロレスと幅広いが、政治的な靖国もその地勢的な文化的な歴史からのアプローチだし、サブカル的なプロレ…