後ろ向きで前へ進む

 坪内祐三は2002年44才の時に『後ろ向きで前へ進む』(晶文社)を出していますが、この福田恒存についての卒論?を含む初期の評論集は靖国、植草仁一、プロレスと幅広いが、政治的な靖国もその地勢的な文化的な歴史からのアプローチだし、サブカル的なプロレス、そして散歩が得意なストリートの先駆者なのでそれなりに統一がとれているような気がします。

 そうだ、タイトル「後ろ向きで前へ進む」が明治や大正、昭和初期の文学・文人についての過去の人とテクストとそれに関わるもろもろを自分の身体性を担保として調べて書くのは、それを評価できる人、特に坪内さんよりも年上の評論家・作家・学者がいないと成立しないかもしれない。

 「後ろ向きで前へ進む」には無謀な勇気と強靭な精神が必要だと思います。前を向いている背中に何かがぶち当たったら戦うかなぎ倒せばいいけれど、何にも突き当らず前を振り向いたら誰もいなかったと知ったらそれは絶望と虚無につながる。それは自己破滅的な飲酒の生活につながりかねない。追悼エッセイの何本かはそれに当たるような仄めかしが書かれていた。

 つまり古書(≒明治・大正・昭和の文人と社会を扱う)と古書が置かれている古書店、その街と人間などをストリートワイズに生きてきた坪内さんの価値が分かる年上の作家や評論家や学者がいなくなると、理解しようともしない若い世代はもちろん、同世代でも似た様な価値観や知識は共有できないので、坪内さんは一人になっていったのではないかと想像します。

 桜は満開を少し過ぎましたが、葉桜や梅などもあって発寒川河畔公園の散歩を楽しめます。画像は小さくすると良さが出ないので省略しました。寒いけれど仲間はテニスをやっていました。僕は閑居して、これから少しお酒です。