ブルックリンに帰る

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 ポール・オースターの2005年発表『ブルックリン・フォリーズ』(Brooklyn Follies, 新潮文庫、2020年)を読んでみました。訳者の柴田元幸さんもあとがきで書いているように、ゆるくて喜劇的で読みやすい。ブルックリンで生まれた中年の男が56年ぶりにブルックリンに戻ってきます。ずっとウェストチェスターというマンハッタンの北にある高級住宅街に住んでいたよう。決めたのはプロスペクト公園の近くの庭付きアパート。プロスペクト公園にはブルックリン美術館に行った時に降りた地下鉄の駅のそばだったように記憶しています。

 実は(いつもたいした実はでもないんですが)59才の肺がんの男が死に場所としてブルックリンに戻ってきた『ブルックリン・フォリーズ』の次に読み始めた『オラクル・ナイト』(2003)は、重病から生還した34才の作家がリハビリのためにブルックリンの街を歩いて、いろんな人に出会い、物語を書き始めるので、少し驚きました。

 また驚いたのは、『ブルックリン・フォリーズ』の時代設定は2001年なので大統領選についても言及していて、共和党のブッシュ側の投票についての不正もしっかり批判しているのと、最後の最後に数日入院した主人公が無事退院するのが2001年9月11日午前8時である事。主人公ネイサンの娘や甥や姪などのトラブルも一応解決して、オースター作品には珍しくハッピー・エンディングだと思ったら…。やはりただでは終わらない。