漂う、バカラック

   バート・バカラックが4日前に94才で亡くなった。

 ディオンヌ・ワーウィックの歌声で記憶している曲が多いかな。「ウォーク・オン・バイ」(1964)、「世界は愛を求めている」(1965)、「小さな願い」(1967)、「サン・ホセへの道」(1968)。その中でも「小さな願い」(I Say a Little Prayer)はアレサ・フランクリンでも有名ですよね。

 「世界は愛を求めている」は女性シンガー・ソングライターの走りでもあるジャッキー・デシャンノンの歌唱。デシャンノンはキム・カーンズがカバーした「ベティ・デービスの瞳」(1981)の作曲でも有名です。

1969年は『明日に向かって撃て』の「雨にぬれても」。これはB・J・トーマスのゴスペルっぽい歌い方で印象に残っています。もちろんポール・ニューマンキャサリン・ロスの自転車の場面も。

 で1967年の「恋の面影」はイギリスのダスティ・スプリングフィールド。僕はこの曲が好きでyoutubeで見つけた関連映像を一生懸命記録してブログに載せました。映画のラブ・シーンを中心に、実際の女優と監督のカップルなどの静止画像を編集したものです。

 これがタイトルの「漂う」という表現とつながります。バカラックはボサノバの影響を受けた時代で、ゆったりとした曲調、高度な和音、複雑な転調などを特徴としている(らしい)。サンバがブラジルの土俗的・民族的な音楽なのに対して、ボサノバはかなり洗練された都会的な音楽でした。ジャズとの関連/親和性も強い。だからゲッツとジルベルトのジャズ・サンバが世界的にヒットしたのでしょう。と言うか1950年代のクール時代のジャズとボサノバの共通性/双方向の相乗効果。

 バカラックもジャズ的なメロディーや展開が多いような気がします。もちろん都会的でスマート。そうだ、ちょっと悪口。ボサノバの代表選手アントニオ・カルロス・ジョビンバカラックの共通点は?二人とも歌がうまくない。コンサートではピアノを前にして歌いますが、すぐに専門?のコーラスに引き継ぎます。でも、これは仕方がない。天才的な作曲家ですが、コンサートでは歌手に任せればいい。

 さてバカラックはドイツ系ユダヤ人の苗字です。ドイツ系もユダヤ系も有名な音楽家が多い。Bacharachはドイツ語読みでは「バッハラッハ」で、ドイツに同じ名前の地名もありました。しかも語源は不明でケルト系に由来するらしい。実は(また「実は」ですが、今度は本当?の「実は」です)ケルト系はローマが進出してくる前は、ヨーロッパのかなりの地域を支配していた歴史があります。中世以降になるとイギリスを支配していのがヨーロッパ本土からのアングロ・サクソン系(ゲルマン系)に駆逐され、ブリテン島の辺境とアイルランドに追いやられたという印象が強いですが。

 カーペンターズで有名な「遥かなる影」(1970)は1963年にリチャード・チェンバレンが歌っていたらしい。あの『ドクター・キルデア』は歌手でもあったらしい。『タワリング・インフェルノ』(1974)の大火災の原因となる不法建築で懐を肥やした悪役で印象的でした。でもカレン・カーペンターの中音域で穏やかに伸びていく歌声が、この曲にぴったりでした。

 最後にバカラックの名曲の名歌唱を比較すると初期のディオンヌ・ワーウィックのテンポの速い、低音の歌唱。少し後のダスティ・スプリングフィールドは低音でスロー・テンポ。そしてカレン・カーペンターの中音域でスロー・テンポに落ち着くのかなと愚考しました。どれもとてもいいけれど、今のところダスティ・スプリングフィールドのLook of Loveを聞いて、バカラックに合掌しようと思います。