『ロリータ』、反復する物語

『アリスが語らないことは』(創元推理文庫、2022年)について。作者はピーター・スワンソン、1968年生まれ。2015年のThe Kind Worth Killing(「殺されてもいい人」くらいかな)が、『そしてミランダを殺す』)というタイトルで評判を呼んだ(らしい)。冒頭の交換殺人に似たような会話はパトリシア・ハイスミスを連想させる。というのは交換殺人ではなくて、「そんなひどい奥さん(ミランダ)なら殺してあげようか」というようなやり取りがあるのです。

 そして今回読んだ4作目のAll the Beautiful Lies(『アリスが語らないことは』)。古書店を経営する父を亡くしたばかりのハリー、とその継母アリス。このアリスが主人公でロリータでした。つまり少女のころに母親が再婚した相手は、最初からアリスを目当てにして、後から妻を殺してしまう。そしてアリスと継父が関係するようになります。

 時間がたってアリスが年上の男性を結婚するのだが、これが最後の方で美青年の息子が目的だった事がわかる。この「ロリータ」1と、性別が反転する「ロリータ」2の物語の反復。そして年を取る事へのネガティヴな考察がつらい。年上の男性に愛された美少女は、今度は自分が年上の女性として美青年を愛する。愛されるのは若くて美しいから。年を取って美しさが消えると、今度は愛する側になってしまう。性的な指導者としての役割。そして若さが絶対的な美質として称揚される未熟な考え方。

 しかし年を取る事のつらさも実感として分かるこの頃です。年を取っていろんな事を経験しても、それによって人間として成熟したかと言うとそうでもない。でもそれはそれで仕方がないし、それでいい。若い時も、年を取った今もあるがままがいい。ただ、その違いが判る老人です。

 作品がらみでいい写真がないので、気に入った知事公館の写真です。