『リチャード・ジュエル』、聖なる凡人

 2019年のクリント・イーストウッド監督作品。

 そんなに好きでもない監督の作品ですが、外れもあるが当たりの確率は高い。『クライ・マッチョ』(2021)と『15時17分、パリ行き』(2017年)はいまいち。『運び屋』(2018年)は結構よかった。そして『リチャード・ジュエル』はもっとよかったです。主演の二人がいい。爆発物を発見してヒーローになり、その後は容疑者になってしまうリチャード・ジュエルをポール・ウォーター・ハウザーが演じる。彼の二重あごやお腹がかわいい。相撲人形みたいで、イノセントで、周りから揶揄られる人物を体形や容貌で表現できます。

 でリチャードの弁護士になるワトソンをサム・ロックウェㇽが演じます。こちらはフランシス・マクド―マンドの『スリー・ビルボード』(2017)で初めて目にした俳優。レイシストの警官を演じて、そのプア・ホワイト(失礼)的な風貌がぴったりでした。でもワトソン弁護士もぴったりで、後から豊富な演技歴を知って、その演技力を実感しました。

 物語は1996年のオリンピックの開催地アトランタで爆発物を発見して多くの人の命を救ったリチャードが、FBIに疑いをかけられて、一転容疑者になってしまう。そして元の職場でリチャードを軽視しなかった弁護士のワトソンに窮地を救ってもらう。イーストウッドの演出はリチャードがいろんな職場で正義感を発揮しては、理解されない、疎んじられる様子をゆっくりと表現している。

 確かにリチャードのような人物がいると面倒かも知れない。大学の警備員では、寮の男子学生の飲酒を厳しく罰して、学長から首にされてしまう。この無理解な学長が後にFBIにリチャードがいろんなクレームを受けた人物であることをわざわざ報告して、容疑者になるきっかけを作る。このFBI捜査員がジョン・ハム。『マッドメン』でよく知っています。ひげの濃い、ハンサムな俳優。でもここでは女性レポーターにもらった情報で、証拠や事実の検証もなく、家宅捜索を繰り返し、リチャードと母親(キャシー・ベイツ)を追い込んでいきます。かっこいいルックスとFBI捜査官と言う地位を持ちながら、最後まで無能で自分の非を認めない嫌な人物として描かれます。

 リチャードは警察官やFBIの捜査官になりたくてなれないので、必要以上に敬意と尊敬の意をもって接します。彼らは全く逆に警察官や捜査官になれないリチャードを人として認めないような接し方をする。

 物語の構造としては、主人公のアップ&ダウンが観客の興味を持続させます。例えば貴種流離譚ではダウン&アップですが、リチャードの場合はアップ&ダウン。それが最後にもう一度アップしてハッピー・エンドになります。そのような物語を嘘くさくなく語り演じるのは、監督と俳優の力か。そして何よりも聖なる愚者/凡人を演じた俳優のほっこりする容姿だと思います。

 写真はポール・ウォーター・ハウザー演じるリチャード・ジュエル。実物のリチャード・ジュエルも太っているけれど映画程愛嬌はない。また俳優のポール・ウォーター・ハウザーもリチャード・ジュエルでない画像ではそれほど愛嬌はない。つまりこの映画のポール・ウォーター・ハウザー演じるリチャード・ジュエルが太ってかわいいんですね。動物のぬいぐるみみたい。