『ノマドランド』再見、おすすめ

 2021年の映画。フランシス・マクドーマンド主演のジミ~な映画です。でもじっくり見ると面白い。彼女については何回か書いています。

 原作は『ノマド:漂流する高齢労働者たち』(Nomadland: Surviving America in twenty-First Century)で、これを読んだマクドーマンドが映画化権を買って、中国人の女性監督に監督を依頼。

 前に一度みて、ブログを試みたけれど。

 でも再見するも最初は淡々とし過ぎて、地味で・・・でも見ているうちに画面から目が離せなくなります。

 時代は2010年代。リーマンショックサブプライム・ローンの破綻の後のアメリカ。

 家を失った高齢者は、車上生活をしつつ、臨時の仕事をしながら移動します。

 主人公のファーンもそうですが、実はこういう場合の主人公の特権?があります。やむを得ず車上生活をしていますが、妹は一緒に暮らそうと言ってくれます。また同様の申し出をする男性も出てくる。つまり、ノマド的生活から抜け出る申し出が複数ある、他のノマドに比べると恵まれていると言えます。でも不自由な生活をしながらも、自由を選ぶファーン。

 アメリカの広い、けれど荒涼とした、とまでは言わないけれど、決して緑に囲まれた美しい自然ではない。そこをバンで一人いく老女(60代半ばです)。でもファーンはたんたんと時間を過ごしていきます。楽しくはないけれど、そんなに悲惨でもない。

 似たような境遇の仲間もいます。野外で用を足したり、ごみの処理、洗濯、食事、後片付け、次の仕事や車中泊が認められる駐車場の手配など些末だけれど現実的な問題はいくらでもあります。

 最後に離れなければならなかった自分の家を訪れて、また旅に出ます。

 画面にはDedicated to the ones who had to departとSee you down the roadと出ます。字幕は「旅立った仲間たちに捧ぐ」、「またどこかの旅先で」と。

 でも本当はちょっと長くなるけれど「旅立たなければならなかった仲間たちに捧ぐ」ではないだろうか。この物語は、自分の意思で家を離れたのではなく、経済的な理由で家を捨てざるをえなかった人たちについてですから。2つ目は「またいつか会いましょう」かな。

  フランシス・マクドーマンドについてはブログで3~4回ふれている関心のある女優です。彼女が27才の時の『ブラッド・シンプル』から、『ミシシッピ・バーニング』(1988)、『ファーゴ』(1996)、『あの頃、ペニーレインと』(2000)、『スリー・ビルボード』(2017)と本当にいい映画に出て、いい演技をする尊敬する女優です。

 でもこの映画では本当にすっぴんと言うか、トイレの場面や水浴びをする場面とか、中年から老年になりそうな女性の素顔をさらけ出す。

 冒頭で書いたように、監督の描き方も淡々として、2回目だけどこれはもうやめようかなと思うくらい地味な滑り出しです。でも見ていくうちに物語と主人公の演技と映像に惹かれていきました。だから途中でやめないで見て下さい。

 アメリカの荒涼とした、でも美しいところのある、広い広い景色。カメラもいい。音楽も少しセンチメンタルかなと思うくらいきれいなピアノ。ま、それで対位法的に地味な、暗めの内容を補完するという事でしょうかね。小津監督の悲しい場面には明るい音楽をという考えと同じ。

 写真は監督のクロエ・ジャオと主演女優のスナップ。いい映画を作るスタッフの素顔。