エレン・バーンステイン、魅力的な82才

手元にある『死を騙る男』(2011年、創元社)を何となく読み返していて、映画化されていれば見たいなと。

 原作は2008年、The Calling。映画化は2014年、英語題名は原作通りThe Calling、邦題は『殺人の啓示 死を誘う男』。いつもの愚痴ですが日本語のタイトルは説明しようとして分かりずらい。

 でアマゾンでレンタル料299円で見ました。カナダの田舎で起きた殺人事件を主人公の女性署長が捜査をします。主演はスーザン・サランドン。あ、これって『ファーゴ』(1996)を連想させますが。でもこちらはブラック・コメディではなく、The Callingですから「神が人を呼ぶ、何か使命をあたえる」という意味なります。ですから邦題に「啓示」が使われるんでしょうね。それが間違って自殺ほう助、さらには殺人に。翻訳や映画化の邦題も、そのあたり苦労している、工夫している、けれどうまくはない。

 それで女性署長の母親の女優が、娘のサランドンよりもチャーミングなお祖母ちゃん。これが『ラスト・ショー』(1971)、『エクソシスト』(1973)、『アリスの恋』(1974)のエレン・バーンステインでした。1932年、僕よりも20才年上で、40才近くなって注目された遅咲きの女優。でも90才近くなっては初監督にもトライする元気が羨ましい。

 この映画の時は82才か。娘役の68才のサランドンよりも魅力的と言っていいかな。カナダの冬景色の荒涼とした美しさは、『赤毛のアン』を思わせる。その中で、背骨の病気のせいか、鎮痛剤とお酒をセットで服用している女性署長。お酒は署長室でコーヒーにドバドバ入れたり、時には瓶から直接飲んだり、かなりワイルドです。かなりの酒好きの僕でも引いてしまうような。

 かなり陰鬱な映画の内容よりも、老女優と言えないような、チャーミングなエレン・バーンステイン。もともと若さとか美しさとか、はかない一過性の美質に頼っていなかった俳優の方が年を取ってからも生き生きとしています。でもスーザン・サランドンも若さとか美しさラインではなかったんですけどね。でっかい目とか、四角い輪郭が目立つような。
 中年の魅力的な女優と言えば、エレン・バーンステインよりも4つ年下のイギリスの女優グレンダ・ジャクソンも似たような、強面の、芯の強い女性のイメージで格好よかったです。『恋する女たち』(1969)でアカデミー主演女優賞、33才。D・H・ロレンス原作で、男二人の裸のレスリング・シーンで注目?されました。アラン・ベイツ×オリバー・リード。どちらもイギリスの俳優らしい、地味で強面で、ちょっと暗くて魅力的。アラン・ベイツの方はバイセクシュアル。リードの方はお酒で1999年『グラディエーター』撮影時に61才で亡くなる。イギリスの俳優はアメリカと違って、ドラッグではなくお酒という由緒正しい酔っ払いが多くて好きです。

 グレンダ・ジャクソンに話を戻すと、『日曜日は別れの時』(1971)で英国アカデミー賞主演女優賞。さらに『ウィークエンド・ラブ』(1973)で2回目のアカデミー主演女優賞。ついでに言えば、翌1974年のアカデミー主演女優賞は前述の『アリスの恋』のエレン・バーンステインで、決して若くない女優が活躍できた時代だったようにも思えます。

 そしてかなり前の自分のHPやブログでも、イギリスの俳優への偏愛を繰り返し書いているような気がします。アメリカの老年女優の魅力から、似たようなタイプのイギリスの女優に、そして最後はイギリスの俳優の話。やっぱり自分の好きなジャンルの話になるんでしょうね。

 最後に1997年ロンドンにいた時に、ウェストミンスター宮殿(国会議事堂)そばの地下鉄で、政治家に転身したグレンダ・ジャクソンを見ました。この記憶はたぶん本物です。