アメリカと具象画

 

アメリカの絵画って一般的に1950年代のジャクソン・ポロックに代表される抽象画とその後の60年代のポップ・アートが有名ですが、専門家に言わせると具象画がアメリカの本流の様です。
 でも17世紀の独立前は日曜画家の肖像画、独立前後は英欧の影響、そして19世紀中ごろに初めてアメリカ的な風景画が出てきます。その後もイギリスとヨーロッパの影響と伝統から如何に脱するかという絵画におけるアメリカ的なアイデンティティーの探求をやってきたんですね。アメリカの自然はヨーロッパにはない物ですから、それを描けばアメリカ的な風景画になります。しかしそこにギリシャ・ローマ的な神殿が描かれたり、アメリカ的な風景にピューリタン的な霊的なものを描き込んだりしています。これは1回目の「ハドソン・リバー派」。
 20世紀前半になると、ヨーロッパのキュービズム、フォービズムの影響も受けながらも、アメリカ的な都市や自然を具象的な手法で描き続けます。いわばテーマ(描く対象)がアメリカ的、手法はヨーロッパ的となりますか。それが20世紀後半となると、それまでのヨーロッパ的にはない、でも表現主義の影響を受けた抽象表現主義が世界の美術界を席巻し、次いでポップ・アートが芸術のポストモダン的に日常のもの(缶詰や洗剤の箱)などを並べたり、シルク・スクリーンで有名人の顔を並べたりして、芸術の概念を変える大きな流れとなっていく。
 このアメリカ美術が世界に知られる現代の2つの潮流の印象が強すぎるのですが、本流としては具象画です。これをrepresentationalというのですが、目に見えるものを再現するんですね。ですから抽象画とは違いますが、画家の目に写ったものを描くので、そこに画家の主観や個性が当然のように反映される。例えば、エドワード・ホッパーの「ナイト・ホークス」を抽象画とは言いませんが、ダイナーの窓の寸法などはリアルでは決してありません。ダイナーの中の客の孤独を描くためにありえない大きな窓のダイナーを描くんですね。
 言わば誇張されたリアリズム、それと商業主義との近接、アメリカ的な風景としての自然と都市。伝統をぶっ壊す抽象とポップ、などでしょうか。

 美術館で絵を見ると、画集で観るのとはずいぶんと絵の大きさで印象が違います。左端の人影が僕です。