『警察日記』、またしても孤児

 森繁久彌主演の会津の田舎の警察署の物語。久松静児監督の1955年(昭和30年)作品。

 映画公開は戦後10年たっていますが、時代設定は戦後まだ間もない時期。捨て子の引き取り先を巡って、孤児収容所や保健所が引き取らない理屈をひねり出す官僚主義というかお役所の仕事ぶりも批判されています。いちおう主人公の警察官はいい人ばかり?

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 映画を眺めていて、会津磐梯山の遠望もいいけれど、何よりも捨て子を演じる6才の二木てるみのかわいさ、けなげな事。今風のこましゃくれた子供ではなく、昭和の時代の顔立ち。これが本当にいとおしく感じられます。僕の3才上ですからまだ73才。後年『赤ひげ』で最年少(15才)の受賞をします。でもここではネグレクトされた少女を演じていて、うまいけれど見ていてつらかった。この少女のこころを解きほぐすのは、若き青年医師(加山雄三)。

 さて主演の森繁久彌はこの年(1955年)9本の映画に出ています。『警察日記』は登場人物が多いので出ずっぱりとはならないけれど、『夫婦善哉』はそうはいかない。それと『海道一の暴れん坊』で森の石松を軽快に演じていました。この『次郎長三国志』シリーズでの次郎長を演じる小堀明男。新派の俳優の家に生まれたせいか、見た目はともかく口跡がよくって、聞いていて心地いい。

 40代前半で大活躍の森繁と『夫婦善哉』で共演した淡島千景は31才か。僕は4年前の『麦秋』で発見して、今度は彼女へのインタビューをもとにした『女優というプリズム』まで買いました。片岡義男小林信彦も絶賛する大女優。彼女が宝塚を退団して映画デビューした『てんやわんや』(1950)は映像は見る事ができません。獅子文六の原作は読みましたが、彼女が演じる女性はあまりいいとは言えないけれど。

 タイトルに戻って、二木てるみが演じるのは、捨て子で母親は本当は自分で育てたいけれどできない。それで警察のジープから娘と赤ん坊を見ながら去ってゆく。それを見ている老人(僕)も思わずもらい泣きをしました。今でもウクライナでは、親をロシアの攻撃で失い、戦争孤児が誕生している、この現代世界の非情さ。それも独裁国家の一人の狂信的なリーダーの判断による無意味な戦争によって起きる不条理の悲劇。