シアーシャ・ローナンの『ブックッリン』

 2019年の『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』という訳の分からない邦題の映画で発見した女優シアーシャ・ローナン。原作はもちろん『若草物語』(Little Women、1869)の映画化最新作品。1917年から7回も映画になっています。

 でシアーシャ21才の時の『ブックッリン』。やっぱり美人じゃない、プレーン(普通、時に不器量の意味もあります)かな、ちょっとふっくらしてかなと思いながら見ていました。でもやはりただ者ではない。次第にその表情や演技に引き込まれて行きました。予想はしていたけれど。それも物語の展開に合わせて。アイルランドの田舎者的な少女から、ニューヨークの若い女性に変貌していきます。もちろん都会のスレッカラシ的な女性ではなくて。

  主人公エイリシュ(Eilis)は普通「エリス」と発音されるのですが、ここではアイルランド的に「エイリッシュ」と発音されます。この名はアイルランド語におけるアイルの語源:エール(Éire)からきています。さらにアイルランドのナショナル・カラーである緑も象徴的に使われているような。

 アメリカにはアイルランド人がたくさん移住してきて、警官、酒飲みというイメージ。映画の中でもブルックリンで恋人になったイタリア系のトニ―の家に招かれての話題にもトニ―の弟がアイルランド系移民にからまれたという事が。ではイタリア系は女性にすぐ手を出すという類型かな。

 アイルランドの田舎町に住む母・姉と住むエイリシュは、姉に勧められてアメリカへの移住を決意します。親切なアイルランド系の神父がいるブルックリンに。そこ寮や仕事も世話をしてくれる。デパートの店員をするのですが、女性の上司を演じる女優に見覚えが。あの『マッドメン』で主人公の2番目の妻を演じたジェシカ・パレでした。きれいだけど口に特徴がある。

 新米店員が次第に客の対応に慣れていくのと、エイリシュがブルックリンに馴染んでいくのとがパラレルに描かれていて面白い。タイトルの「ブルックリン」という場所が、アイルランドから移り住んできた若い女性の成長と重ね合わせられています。

 ところが最愛?の姉が急死してアイルランドに戻る事に。でも帰ってこない事を恐れたトニーが結婚を迫ります。秘密に結婚をしたエイリシュは姉の葬式に戻りますが、そこで昔なじみのジムと再会し・・・しかし元務めていた雑貨店の意地の悪い女性店主から、既婚である事を暴露されます。

 もうブルックリンに戻るしかないエイリシュですが、ブックリンこそが現在であり、未来でもある事に気付く。エイリシュを演じたシアーシャ・ローナンの演技力と魅力を再認識した映画でした。