ハリエット、ザ・ヒーロー

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多数の逃亡奴隷の脱出を助け「女モーゼ」と言われた、ハリエット・タブマンの一生を描いた『ハリエット』をアマゾンで見ました。2008年に勤務先の大学と提携をしている大学に短期語学研修の学生の引率で3週間ほど滞在しました。大学はアメリカとの国境に近いカナダのセント・キャサリン市にありました。研修の一環で市内見学をした時に案内をしてくれた白人女性がハリエット・タブマンが一時期そこの滞在してい事を誇らしげに話した事を覚えています。

 南部の奴隷州から北部の自由州へ逃亡した奴隷たちが、例えば映画ではフィラデルフィアに滞在しているハリエットや地下鉄道の関係者たちが、北部の州の逃亡奴隷について法的に保護しない法律ができたので、さらに北部へ、そしてカナダへの逃亡を計画するエピソードが描かれています。

 映画は一言で言えば女性の奴隷の苦難を描いた前半ですが、後半は映画のポスターでもわかるようにヒーロー映画になってしまった。

 ハリエットにシンシア・エリヴォというイギリスの黒人女優を起用した点について批判があったようです。彼女の顔を見ていて、ウーピー・ゴールドバーグを連想しましたが、イギリスで『天使にラブソングを』のミュージカル化の主演を演じ、さらに『カラー・パープル』でもウーピーの演じた役をやったようです。相貌の類似があって、かつ演技力も歌唱力もあったからの起用でしょう。しかも映画の主題歌の歌唱がすごい。もともとシンガー/ソングライターでもある。

 The Underground Railroadの監督はバリー・ジェンキンスという黒人男性でしたが、こちらはケーシー・レモンズという黒人女性監督。どうも黒人の物語が描かれるときに誰が語るかという問題が起きてくるようです。『ナット・ターナーの告白』が発表された1970年には作者が白人男性のウィリアム・スタイロンだった点に少し(かなり)批判が。1985年にアリス・ウォーカーの『カラー・パープル』が映画化された時にも、監督がスティーヴン・スピルバーグというユダヤ系ですが白人男性だった点にも、スパイク・リーがかみついた。そのリーは1992年黒人のヒーロー、マルコムXデンゼル・ワシントンの主演で映画化します。

 それとどのように語るかという問題。The Underground Railroadの原作と映画でもふれたように、リアルに描くとつら過ぎるので、少しマイルドにしようとすると、寓意的ならいいけれど娯楽色が強くなったり、主人公がヒーローになってしまいます。スティルでは銃を持って帽子をかぶったハリエットがガンマン(ガンウーマン)に見えてしまう。監督のケーシー・レモンズは、若い時の女優としてのキャリアの中で『羊たちの沈黙』でジョディ・フォスターのFBI訓練生の仲間を演じています。

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