ジョン・ル・カレとスパイ小説の系譜

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  つい先日なくなったジョン・ル・カレを知ったのは『寒い国から帰ったスパイ』。1963年の原作が1965年には映画化されました。しかしジェームズ・ボンドの華麗な?スパイ映画の方に中学生は惹かれてしまいます。

 『寒い国から帰ったスパイ』は時々スター・チャンネルで見ますが、やはり暗い。意図的に白黒でリアルに描こうとしているような気がします。監督のマーティン・リットは『寒い国から帰ったスパイ』の前後に『ハッド』(1962)、『太陽の中の対決』(1965)とポール・ニューマンを主演にリアルな西部劇を撮っていますし。

 ジョン・ル・カレのスパイ・ミステリーはイギリス人の英語の先生も難しいと言っていました。文学的なのでしょうが、そのような情報部員の経験のある文学の方面の作家の系譜は、サマセット・モームの『アシェンデン』(1928)、グレアム・グリーンの『密使』(1939)と続いていました。

 特に文学的に限らなければ、第1次大戦直前に書かれたジョン・バカンの『三十九階段』(1915)が現代スパイ小説の嚆矢と考えられ、第2次大戦ではエリック・アンブラーの『あるスパイの墓碑銘』(1938)、『ディミトリオスの棺』(1939)がリアリズムと冒険小説の両面を持った作品と言えます。

 また007に対抗したのはジョン・ル・カレだけではなく『ベルリンの葬送』(1964)、『10億ドルの頭脳』のレイ・デントンも地味目なスパイの実相を描いたと言えますね。主人公ハリー・パーマーの三部作としてマイケル・ケイン主演で映画になり、特に3作目の『国際諜報局/10億ドルの頭脳』(1967)は監督がケン・ラッセルのせいもあって見ごたえのある作品になっています。実は後のスパイ・コメディの『オースティン・パワーズ』はハリー・パーマーのパロディでイケル・ケインも主人公の父親役で出ています。

 さてアンチ・ヒーロー的なスパイの系譜は、ブライアン・フリーマンのチャーリー・マフィンに引き継がれ冷戦終了後もエリート対たたき上げの諜報員の対立/確執は描かれ続けます。僕はこのチャーリー・マフィンが好きで、翻訳・原作を繰り返し読んでいますが、なかなか映画にはなりません。テレビではアントニオーニの『欲望』で主演したデヴィッド・ヘミングスが演じていました。

 また手元にあるジョン・ル・カレを読み直してみたいと思っています。