女性電信技士の活躍

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  ヘンリー・ジェームズの1898年の作品『檻の中』が12月の支部大会のシンポジウムで取り上げられる予定についてはすでに報告しました。じつはこのヴィクトリア朝最後の時期の中編小説がけっこうポストモダン的な作品で、やっぱり翻訳がほしい。自分の英語力のなさに気づきます。と同時に関連の文献を調べていると、”telegraphic romance”という電報の女性技士の主人公が仕事に関連してのロマンスがけっこう描かれていた事が分かりました。

  ジェームズの原作ではtelegraphist、一般的にはtelegrapherとい言われ、女性の社会/職場進出の一例で、技士の30%が女性だったようです。有名なサミュエル・モースが1830年代に発明し、それが1950年代には電報として普及します。日本では明治2年に使われ始め、その後鉄道が開通し文明開化がはじまる訳です。明治か大正時代を描いた映画かテレビで、電報で緊急の連絡をする場面を見た記憶があります。

 この鉄道の後、電話の前に普及したメディアについて、その新しい女性の職業である電信技士が主人公の小説や映画も結構あり、『国民の創生』(1914)で「アメリカ映画の父」とも言われたグリフィスも女性電信技士を主人公の短編を2本ほど作っています。また元技師の女性が書いた小説も。

  グリフィスのThe Lonedale Operator(1912)の方は16分ほどの短編で、列車の中で通信士を務める女性の恋愛と鉱山会社の給料を盗もうとする列車強盗を阻止する物語で、当時の列車、通信、鉱山という産業と社会と恋愛をからめた作品に仕上がっています。

 さて『檻の中』の方はまだ時間があるので、電子辞書を横にゆっくりと読んでいます。

 写真は1970年代のHarperに掲載されたものです。手前の男性が依頼する文を書いていて、それを右のwoman operatorが電報にする。窓があってゆったりとした職場ですが、『檻の中』の方はその題名の様に、ロンドンの雑貨屋の一角にある狭い職場なので、主人公の女性は無意識にそこから想像力で脱出するように依頼人の秘密に想像力を巡らせていくという展開になっています。