Zoomの支部大会

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 8月くらいまでは対面の支部大会も可能かなとも思っていたのですが、Zoomにして正解でした。こんな第3波まで延長して拡大するとは暢気な僕は考えませんでしたから。

 アメリカ文学会会長の京大名誉教授水野先生を迎えての特別講演とシンポの2本立てです。

 2時開始ですが1時半からZoomに入れるか確認。支部執行部だけでなく講師の水野先生も自宅で操作の確認をしていました。後ろに奥様や猫ちゃんが見えてほほえましい。特別講演がヘンリー・ジェームズとプルーストの関係、シンポジウムがヘンリー・ジェームズの『檻の中』をめぐってなので、ジェームズ関係の研究者の人たちも参加して盛会。

 さて松井支部長の開会あいさつと司会で講演が始まりました。ジェームズは年下のプルーストの作品に関心を持って激励の手紙も出したらしいです。結婚をしなかったという経歴(セクシュアリティ?)にも共通性があって、詳細な叙述の仕方も芸術家らしい作家と思います。講演後に心理小説の歴史が長いフランスの文壇(があるとして)はジェームズをどう評価したかを聞いてみました。すると予想とおりフランスの小説の英訳はすぐ出るけれど、英語の小説の仏訳は多くない。評価については今後の研究の課題と言う回答をいただきました。やはり中華思想のフランスは他国の文学にはあまり関心がない(ようなふりをする)。

 でも第2次大戦終了間際のフィルム・ノワールなんかはアメリカの通俗小説(ハードボイルド)をフランス語に訳し、同時期にその映画化も輸入して、それがヌーベル・ヴァーグにも影響を与えたので、ポピュラー・カルチャーに関してはアメリカに関心があったと思います。

 さてシンポの発表も面白かったです。貸本のロマンスを愛読する電報通信士の若い女性の、上流階級への羨望が、過剰な想像力から妄想へと暴走して、始終で郵便局に現れるハンサムな大尉に憧れます。彼の恋人(上流階級の婦人)との電報のやり取りに関わり、大尉のアパートの周りをうろついて彼と遭遇し、公園のベンチで語るようになります。これは現在ならストーカーかな。この大尉は実はギャンブルで借金をしていて、不倫中の恋人の夫が亡くなって、未亡人と結婚する事で経済的に一息をつく事になります。

 その間、安定した結婚を約束する許婚に結婚を迫られていましたが、大尉の結婚を機に、そして年上の友人で上流階級に生け花のデコレーションを提供する未亡人の上昇志向の行く末も見てしまった主人公が結婚を決意する場面で物語りは終わります。結局この若い女性電報技士は無意識にこのような結末を知っていて、でも想像力の暴走をあえてしていたようにも読めます。作者もこのようなちょっと皮肉っぽく、でも突き放したようでもない、曖昧ででもホッとするような着地を用意したのでしょう。

 フロアからのコメントで、哲学者のジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの『千のプラトー』に『檻の中』の分析があると聞かされて、先ほど気になってアマゾンで注文しました。けっこう『檻の中』が気に入りました。