アメリカ版『東京物語』の明るさと・・・

 『東京物語』(1953年、日本)に対するオマージュ的な『みんな元気』(1990年、イタリア)。それをレメークした『みんな元気』(2007年、アメリカ)。イタリア版は『ニューシネマ・パラダイス』で有名なジュゼッペ・トルナトーレ監督。

 そしてこのアメリカ版の『東京物語』と言えなくもないロバート・デニーロ主演の『みんな元気』を見ると、家族の問題を描きつつもずいぶんと明るい。明るくていいんだけど・・・

 病気だけど元気のいい年寄り(60代半ば)で妻を半年前になくしたフランク(デニーロ)は子どもたちが来てくれないので、自分の方から出かけて行きます。医者のアドバイスに逆らって、NY(東部)~シカゴ(北西部)~デンバーラスヴェガス(西部)とアメリカ大陸を列車やバスで横断するロード・ムービーでもある。

 NYでは画家になったデイヴィッドを訪問するけれど不在。この不在が物語全体のサスペンスを担当します。つまり不在の謎を兄弟同士が電話で父親に隠す算段をしている。その謎の輪郭は分かるけど全貌については曖昧なまま物語を引っ張ります。ま、言ってしまえば不在は死につながるのですけれども。

 次はシカゴの長女エイミー(ケート・ベッキンセール)のところでは、夫婦仲が悪そう。孫とは少し交流します。エイミーはやり手の広告会社の幹部。

 次はデンバーのロバート。オーケストラの指揮者になったと思い込んでいたのですが、打楽器奏者だった。思い込んでいた父親のキャラクターは、後に子どもたちから「話すのがうまい」≒「聞くのが下手」と解き明かせられます。母親は聞くのがうまかったので、子どもたちは母親にいろんな事を話していたと。ここで親の役割を考えると、聞く方が重要でしょうね。

 この内気なロバートを演じるサム・ロックウェル。一瞬イギリスのゲーリー・オールドマンと思ったけれど、あの狂気?はない。でもよく似ています。そしてしがない?感じがうまい俳優です。『スリー・ビルボード』(2017年)で人種差別主義者の警官を演じたとても印象的でした。イーストウッド監督の『リチャード・ジュエル』(2019年)では主人公を助ける弁護士役も。

 最後はラスベガスにダンサーをしているロージーを訪ねる。ドリュー・バリモア演じるロージーはさすがに華がある。友人の赤ちゃんを預かるけれど、どうもその友人と同性婚のよう。赤ちゃんは体外受精かな。

 ここで子どもを訪ねての物語は、フランクの家に戻る飛行機内での急病~入院で終わります。

 この親の期待通りにいかない子どもの人生を知ったフランクの病気は、子どもたちを引き寄せます。そこで知らされるデイヴィッドの死。しかも麻薬の過剰摂取によるものだと。

 しかしアメリカの映画はアンハッピー・エンディングを嫌います。ディヴィッドの絵を扱っている画廊で彼の絵は商業的でないけれど、それなりの評価を得ていると父親は知らされます。しかも見せられた絵はフランクの生涯の仕事であったコーティングをした電線を描いたグラフィティ的なものでした。

 最後はフランクの家に子どもたちが集まって幸せそうなエンディング。これでいい。でも『東京物語』へのオマージュ的なイタリア版『みんな元気』から、リメークのアメリカ版『みんな元気』に至ってはカラっと明るくてほのぼのとして、典拠とした元の作品とはあまりに違う。そこには人生のいろいろな複雑な織りのようなものはない。人の世の悲しみのようなものもない。それってないものねだりなのかも知れませんが。

  写真はフランクが一人で暮らす家。窓から見える庭が広くて素敵です。家も広い。ま、5人家族が暮らしたアメリカの平均的な家のちょっと上のクラスだろうか。子供が巣立って、妻に先立たれた老人の優雅な?一人暮らしが描かれていて、寂しさ≒リアリズムではない方向で悪くないのかも。