Helter Skelterと世界の混沌

 いま読んでいるミステリー『スリーピング・ドール』で、チャールズ・マンソンもどきの犯罪者が登場。やっぱりHelter Skelterという言葉/概念が出てきた。この世界に混乱を引き起こすカルト集団のリーダー、マンソン。僕の時代ですとシャロン・テート事件。ロマン・ポランスキー監督の奥さん/女優が惨殺されて驚きました。このマンソンがHelter Skelterという言葉で、体制をひっくり返す道徳や社会通念の転換/崩壊を意図したんですね。

 Helter Skelterってビートルズの曲というイメージでしょう。『ホワイト・アルバム』(The Beatles、1968年)2枚組の2枚目の6曲目です。このタイトルは、実は『ガリバー旅行記』のジョナサン・スウィフトの詩に出てくる表現です。元々その時代(16世紀のイギリス)のdisorder, confusionの意味。語源は11~15世紀の英語のskelte≒hastenらしい。Hastenは「急ぐ」という意味で学校英語でも習いますね。

 スウィフトの詩は巡回裁判に出た若手弁護士が権限を悪用して民衆の怒りを買ってロンドンに逃げ帰る。そんな滅茶苦茶(Helter Skelter)な巡回を描く。

  その後、見本市や遊園地にある大型滑り台の事を指すようになります。ビートルズの歌詞にもそのような遊具・アトラクションをさす部分があります。でも元々は無秩序、混乱という意味ですから、社会や政治に関心のあるジョン・レノンと思いきやポールの作詞らしい。

 The WhoのI Can See for Milesのようにloudでdirtyな曲を目指したらしい。歌詞もラブ・ソングのようなそうでもないような、僕的にはポスト・モダン的な分裂した混乱した曲に思えます。そのような点がマンソンを引き付けたのだと。さらにはロックでのカバーや、映画、漫画、ラップでの引用につながります。

 そして現代のこの世界、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルによるハマスと言いつつパレスチナへの無差別攻撃。20世紀前半のこのような暴力とまだ終息していないコロナ禍を考え合わせると、この世界がまさにHelter Skelterを実現しているようコワイ。そしてこの混沌とした世界を僕たちがどうする事もできないでいる無力感。

 写真はロンドンのグリニッジにあるHelter Skelter。やっぱり何かほっこりするよりは、サイケデリックでdisorder, confusionの方向に見えます。