ゴスペル雑感

 正月早々、どうしてゴスペルかというと。

 関西のゴスペルを歌うグループが読者になったと言う通知があったからです。数少ない貴重な読者。

 それでその人たちはよく知っているでしょうが、僕が「アメリカ文化論」でロックやジャズ、ブルースについて語っていた時のゴスペルについて少し。正月らしい話題かも。

 Gospelはgood+spellまたはgod+spellから来ていると言われています。前者だと「善き言葉」、後者だと「神の教え」となります。spellは「(単語の)綴り」、「期間」という意味で学校の英語の授業では教わります。「綴り」の方向から「言葉、メッセージ、教え」ともなる。

 そうだ。"I put a spell on you"という曲のspellは「魔法、呪文」。CCRの歌で有名かも。ニーナ・シモンも歌っていました。

 でgood+spell「善き言葉」は日本語の「福音」のもとだと思っていましたが、「福音派」は英語でevangelicalなので少し混乱します。evangelical自体が古仏語~ラテン語ギリシャ語でgood newsの意味ですので、そこから英語のgood spell → gospelの形成となるのだと思います。

 そしてやっと歌のジャンルのgospelですが、そのまえに賛美歌に曲をつけたり、聖書に基づく内容からのspiritual「霊歌」がありました。もともと白人の歌だったので、黒人が歌うとnegro spiritualになる。実はgospelの方にもwhite gospelもあって人種横断的でもあります。

 でまたnegro spiritualの方は、白人にも聞かれ、国中やヨーロッパにもツアーに行くように受容されたのに対し、より黒人の感情をダイレクトに表現するジャンルとして(black)gospelが生まれました。シンコペーションを効かせた黒人性の強い音楽です。これはジャズやソウルでも同様です。白人や世界に受容されると、黒人性を打ち出した傾向を強める。

 黒人教会でのゴスペル・カルテット、またはクワイアがオルガンの伴奏で歌われますが、僕が時々書いているスティール・ギターの伴奏でのゴスペルもありました。オルガンを買えない教会の代用品です。Sacred steelというスティール・ギターの伴奏でのゴスペル歌唱集のCDもあります。ロバート・ランドルフという黒人スティール・ギターの演奏者・歌手も人気。NYのトライベッカという地区のWetladというライブハウスでのCDがいいです。

 またギター・エヴァンジェリストといって、ブルースではなくギターでゴスペルを弾き語る布教もありました。エヴァンゲルは前述のようにギリシャ語の「福音」という意味。教会や布教のあり方も様々で、storefront churchといってお店の店先や一角を借りる粗末な教会もあったようです。とにかく教会のかたちをつくる、神の教えを伝えるという事が重要だったようです。

 また黒人教会では、映画『ブルース・ブラザーズ』でも似たような場面がありましたが、牧師が神の教えを伝えるうちに、感情が高ぶってきて歌になり、信者とコール&レスポンスをする。ゴスペル・クワイアでもソロとコーラスのコール&レスポンスはグループの宗教的な一体感と共通するような気がします。

 コール&レスポンスはジャズでも重要な様式なので、黒人集団やコミュニティの必須のあり方なのかなと思います。書いているうちに思い出しましたけれど、カーク・フランクリンと言う黒人の若者がクリスチャン・ヒップホップというジャンルを作ったようです。カークが最初にゴスペルの現状についてラップで語り、そのあとカークとボーカル・グループがコール&レスポンスとするスタイル。そこにはソルト‘ン’ペパーという女性ヒップホップ・デュオのどちらかがゲストで出ていました。

 また1960~70年代のソウル・ミュージックの中には、カーティス・メイフィールドのPeople Get Readyのようにゴスペル的な内容の歌も少なくありません。つまり「救い」、「愛」、「希望」、「平和」とかゴスペル的なコンテンツであれば、音楽の形式はその時々の流行だったり、格好のいいスタイルを使う、という融通無碍なジャンルにも思えます。これはいい意味で言っています。念のため。つまりメッセージが重要な訳です。

 でもっとその前の、サム・クックとかアレサ・フランクリンってゴスペル・シンガーだった。思い出しました。二人ともお父さんが牧師で教会でゴスペルを歌っていた。ゴスペルから出発して、商業的なソウル・ミュージックの世界に入っていくんでした。

 1950年当時はリズム&ブルースかな。その後ソウル~ニュー・ソウルとなって、またR&Bというジャンル名で総称されるようになったのだと思います。

 最初はニグロ・スピリチュアル/ゴスペルが黒人の宗教的なジャンルで、ブルースが世俗的な内容の音楽。100年前に電気ギターが普及してR&Bになる。そしてゴスペルとR&Bの歌手や音楽スタイルや内容は相互に影響しあい、ジャンル横断的に発展していったと、まとめられかな。

 写真はカーク・フランクリンがテキサスのクワイアGod’s Propertyをプロデュースした1998年のCDです。僕は1曲目のStompが好きです。