デュ・モーリエ、孫娘とお爺ちゃん

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ヒッチコックの映画『レベッカ』、『鳥』の原作者ダフニ・デュ・モーリエについては前から関心があったのですが、今回はテネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』(1950)のアマンダ役にイギリスのミュージカル女優ガートルード・ローレンスが出演していて、彼女がダフニ・デュ・モーリエとそのような?関係にあると知ったことからです。

 で二人の関係について調べて書こうと思ったのですが、そこにはあまり関心を引くエピソードがなく、ダフニ・デュ・モーリエと彼女のお爺ちゃんについて書くことにしました。理由はおじいさんのジョージ・デュ・モーリエは『パンチ』誌に風刺漫画を描き、1984年に『トリルビー』というゴシック・ホラー的な小説でも有名な人物だからです。英文学・文化に詳しい人なら誰でも知っている作家・漫画家です。ヘンリー・ジェームズとも親しい友人だそうで、これについては後述。

 さて『トリルビー』はパリを舞台にした作品で、英米でずいぶんと読まれた。主人公トリルビーを誘惑し支配し利用するスヴェンガリという魔術的な音楽家/催眠術師が登場します。このスヴェンガリが邪悪な指導者を意味する名詞にさえなります。ジャズ・ファンの間では、ギル・エバンスの1973年のライブ・アルバム『スヴェンガリ』が有名です。あのころ「スヴェンガリ」って何だろうと思っていました。ガーシュインの「サマータイム」やジョージ・ラッセルビリー・ハーパーの曲を、デヴィッド・サンボーンやマーヴィン・ピーターソンが演奏していました。ライブの場所はダウンタウンのトリニティ教会とアパー・ウエストのリンカーン・センターにあるエイヴリー・フィッシャー・ホールです。

 写真はトリルビーに催眠術を使って音程を治すスヴェンガリ。絵もジョージだと思います。

 そして前述のように、ジョージ・デュ・モーリエはブログでも何回か取り上げているヘンリー・ジェームズとも親しい友人で、『作者を出せ』(2004年、翻訳)に詳しく書かれています。このヘンリー・ジェームズの伝記のような小説はデヴィッド・ロッジというイギリスの作家によるもでのす。この作家は小説理論と実作の小説、特に大学を舞台にしたキャンパス・ノベルまたはキャンパス・ロマンスで有名です。大学生、大学院生、大学教授の研究と私生活を描いて面白い。私生活は恋愛、結婚、不倫、離婚、信仰と性など。それに大学紛争と交換教授/在外研修などが描かれています。

 『作者を出せ』では、ダフニ(まえはダフネと表記していたのですが、最近はより言語の発音に近いとされるダフニになってきています)のお爺ちゃんがけっこう重要な役?で出てきます。ジェームズはアメリカにいた学生時代から『パンチ』誌に出ていたジョージの挿絵が好きで、ロンドンに来るとジョージの家族ぐるみ付き合いをはじめます。 

 しかも友人の『トリルビー』が成功した直後の、ジェームズの戯曲の『ガイ・ドンヴィル』が初演で失敗します。これによりジェームズは劇作をやめたという。3年前に『ガイ・ドンヴィル』の本邦初訳を出した水野先生の訳者あとがきによると、この定説は不正確でその後も戯曲を書いているらしい。でもこの伝記小説ではジェームズはかなり落ち込んでいました。ジョージの成功は祝いつつ、自分の不成功に悲しむジェームズ。

 さて孫娘のダフニに戻ると、『レベッカ』(1938)が1940年ヒッチコックによって映画化されます。2000年のリメークもあります。『レベッカ』は、ダフニのゴシック/ホラーの原作の雰囲気が出ていたと思います。『鳥』(1952、短編集『リンゴの樹』所収)の方は1963年に映画化。これはかなりヒッチコックのアレンジが勝っている。しかもこれで完全にヒッチコックの有名な映画の原作者として(のみ)の認知になります。

 そして映画ファンにのみ知られるニコラス・ローグ監督 ジュリー・クリスティドナルド・サザーランド主演の『赤い影』(1973)。当時ニコラス・ローグはかなり有名な映画の撮影監督として有名だったけれど、1970年の『パフォーマンス』で初監督。1973年の『赤い影』、1976年『地球に落ちてきた男』で主演にデヴィッド・ボウイ―を得て注目を浴びます。僕は1979年の『ジェラシー』から。キース・ジャレットの『ケルン・コンサート』ので山だしが流れてきて新鮮でした。そして『赤い影』は33才のジュリー・クリスティを見る映画。彼女は2006年の『アウェィ・フロム・ハー 君を思う』でも素敵な66才でした。こちらはカナダのアリス・マンロー原作。サラ・ポーリー監督。

 ダフニは恋愛小説家に分類されると言われるけれど、どうでしょうか。何かアン・ハッピー・エンディングというか、途中での不安感とか、娯楽小説の定型とは違う部分が魅力的かも。もう1作『埋もれた青春』と後に『原野の館』という題名で訳されたJamaica Inn(1936)はヒッチコックのイギリス時代の最後の作品『岩窟の野獣』(1939)の原作。ポートレートを見ると、少しくせのある美人ですね。

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