アメリカのユダヤ系作家オースターが77才でなくなった。けっこう関りのある作家でした。
ちょうど30年前に書いた論文がオースターの『NY三部作』について。
大学の卒論と修論とその後の論文も「時間論」的なものだった。28才で就職して2本目かなオースターについて書いた。たぶんもともと好きだったミステリーを文学的に描いた点、ニューヨークが舞台である点など興味がひかれた。
『NY三部作』論は個人的に思い出深い1994年。2月に北大の先生が監修した退官記念論集の形で出した本『主題と方法』(北海道大学図書刊行会)に収録された「出口なき探究――ポール・オースターのニューヨーク三部作をめぐって」。発刊のパーティで先輩と笑顔のツー・ショットの写真もありました。
その年の8月に母がなくなり、10月のアメリカ文学会の全国大会で発表する。その時の司会のK川先生やオーディエンスにいま書評を書いている本の執筆者T先生がいた事も覚えています。
オースターは30代に小説を書き出して、それが注目され翻訳が出るのが1990年前後。それで僕は1994年にメタ・ミステリー≒メタフィクションという、いま考えればそう新しくもない視点でオースター論を書いたのだと思います。
1990年代に『現代詩手帖』(1993)や『ユリイカ』(1999)で特集したり、『現代作家ガイド1 ポール・オースター』(1996)が出ています。『現代作家ガイド』の編集は、上智の飯野友幸さんで、2018年に北海道支部発題の全国大会のシンポジウムに出てもらったアメリカ詩の専門家です。ブルックリンまで出かけてオースターにインタビューをしたようで、『ユリイカ』でも『ルル・オン・ザ・ブリッジ』のプロモーションに来日したオースターへのインタビューが載っています。
語る=書く事が本当に好きだと言うか、身についているというか、これって僕的にはユダヤ人の習性と関係があると思います。それとちょうどミニマリズムの終わり頃と、ポストモダン的なフィクションとの混交が始まりそうな、いいタイミングで登場したように思えます。
でポストモダンとかアヴァンポップとか新しさ(1990~2000年代の頃です)で最初評価されたオースターのアメリカ文学の伝統との関わりについて。つまりホーソーンやメルヴィルなどのアメリカン・ルネッサンスの作家たちに内在する不条理性を探求している。彼らはロマンス作家であると同時にカフカやベケットら不条理作家の先駆でもあると。
しかも探偵小説という通俗/大衆小説のジャンルに不条理かつ実存的な要素を組み込んで、ニューヨークと言うポストモダンな迷宮都市を舞台として描いた訳です。
オースターはマンハッタンンの隣のブルックリンにいて、都市文学ならぬ文学都市をみごとに作り上げた。ブルックリンの中でも安全で高級なブルックリン・ハイツだと思います。僕もマンハッタンのミッドタウンではなく、ブルックリン・ハイツにアパートを借りればと後から思いました。
オースターについての発表の司会を何回かしました。いま東大にいるF君の発表も。数年前に大学院の院生の発表の司会をした時にも、しばらくぶりにオースターの勉強をしました。それが写真。40冊前後の文献。パノラマはうまく撮れなくて、何度もトライしました。