マティスを見る幸福感

 絵画を見て、芸術家の天才的な技術と感覚による世界を感じる。それもある。そしてそこに世界の現実、荒涼たるこの世界の再現をみる場合も。でも同時にその逆に至福の世界を絵画に見る事もある。どちらも現実であり、それを写し出す事が芸術の役割だと思う。

 僕はマティスの絵画にこの世界の善き面、至福の世界を感じて、幸福感にひたる事がある。

 今まで上げた「赤の作品」「金魚」そして「花瓶」の作品世界は総じて、何かしら幸せに近い感覚を抱く作品です。マティスの作品の中でも、無意識/意識的にそのような作品を選んでいるような気がします。

で、特に「夢」(1940)はそう。

この眠る女性のブラウスのフォルムのふくよかさと、寝ていい夢を見ているような女性の目の描線。幸福感が見ているこちらにも感じられてとても心地いい。バックの赤と毛布(楽器ケースか?)の紫とブラウスの青みが勝ったグレイがいい。構図のバランスとか関係ない(と言っていいのだろうか?)。つまり絵全体の中でアンバランスとも言える女性のフォルム。その世界を信じ切っているような無防備な姿勢と穏やかな表情が見ていて幸福な夢を共有できる(ような気がする)。

 直前の作品「ルーマニアのブラウス」(1939‐40)のモデルもブラウスも同じようです。「夢」(1940)ブラスの柄が「ルーマニア」の柄と色が違う。無機的なような、単純な繰り返しのような模様もいい。

静物と眠る女」(1940)でも同じような柄のブラウス。絵としての構図、バランスはこちらの方が正統的なのでしょうが、こちらに向かってくるようなマッス、アンバランスなほっこりした迫力が「夢」にはあって、見るものを包んでくれるような。これもまた絵の力なのだろうか。バックの赤とスカートの黒も効いている。