カークとケリーとヒル(とハンコック)

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 KとHで韻(頭韻)を踏んでみました、あまり意味はないけれど。ローランド・カークの『ドミノ』はソロ初期の代表作のようです。面白いのは対照的とも言える二人のピアニストが登場している点です。アンドリュー・ヒルが6曲を1962年4月ニューヨークで、ウィントン・ケリーが8曲を9月シカゴで録音しています。

 そういう事を知って聞くとカークのオリジナルのA Stritch in Timeのコルトレーン張りのカークのソロの後に弾くヒルのピアノはモンクをもう少しモダンにしたような演奏に聞こえます。モンクが古いというのではなく、彼の音楽は古いとか新しいとかを超越している訳ですし。アンドリュー・ヒルはハイチ出身とされていたので、そこから戦闘的なプレイ・スタイルを想像しますが、あとからシカゴ生まれと分かります。もともとハイチだから戦闘的というのもたんなる連想に過ぎないし。後のケリーやハンコックもそうですが、リーダーや曲に合わせるプレイもあるので、1962年の時点でのカークのプレイに合わせてモーダル(モード的)にも聞こえます。

 そして後半のケリーのピアノはピアノ・スタイルの巨匠バッド・パウエルの影響を受け、マイルス・バンドではレッド・ガーランドビル・エバンスに入るので印象がうすい点もありますが、その明るいフレーズが心地よい。その乗りの良さはジャマイカ生まれから来ていると思うのは浅はかな連想かも。マイルスの『カインド・オブ・ブルー』ではビル・エバンスがリーダーのモード奏法を理解して、1曲だけ担当しているケリーはちょっと違うというか古いんでないのと思っていましたが、ケリーのリーダー・アルバムでは、バッド・パウエル系のモダンなピアノにコロコロと弾む明るさが好きでした。カークにはヒルとか、ホレス・パーラン(I Talk with Spiritsに参加)のような個性的な、癖のあるピアノがあっているように思いますが、ケリーもいいです。

 で実はケリー担当の8曲のうち2~3曲はハービー・ハンコックが弾いているという情報もあります。ブラインドホールド・テストではありませんが、区別がつきません。当時はエバンス的な知的なモーダルな演奏ではなく、パウエル系のピアノに若干明るさを付け加えれば、ハンコックもウィントン・ケリーのように弾ける/聞こえる気もします。

 他方、Domino(タイトル曲、シャンソン)の別テイクなんて、これはハンコック風にも聞こえます。このハンコック、マイルス・バンドから独立して『処女航海』(1965年)や『スピーク・ライク・ア・チャイルド』(1968年)、70年代にはジャズ・ファンクの『ヘッド・ハンターズ』など出している才人ですが、ハンコック・ファンてあまり聞かない。僕も何でもできるひとだけど…と思っていました。でもちゃんと聞くと、どれも音楽的に筋が通っていて、遅ればせながらその多彩でかつきちんとした音楽に敬意を表したいと反省しました。