イギリスは暗い、けど深い

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 暗い美しさというのがイギリスのジャズのイメージです。これは僕がイギリスの俳優に感じるイメージを単純に敷衍しただけかも。暗いけど深みがある、例えばテレンス・スタンプ。さてトランペットのイアン・カー(1943 - 2009年)率いるジャズ・ロックバンド、ニュークリアスの4作目『ベラドンナ』(1972)がそんな印象の始まりだった。実は後から知るのですが、フィル・ウッズのヨーロピアン・リズム・マシーンのピアノ、ゴードン・ベック、ギターのアラン・ホールズワースのようにソフト・マシーンに関係するなどすごいメンバーがすごい演奏を繰り広げています。

 LPはもちろん?処分してCDは見つからないので、けっこう記憶で書いているのですが、Summer Rainという曲のベースやピアノが奏でる長いイントロの後に気だるくも魅力的なイアン・カーのトランペットが登場します。時々使うエントロピーという下向きのエネルギー、明るい上昇的なパワーと反対の方向性を持つドライヴと言うか。時代はモードからフリーやロック・イディオムのジャズ・ロック、フュージョン、クロスオーバーですが、そのいい部分を抽出して表現している。それでBelladonnaSolar Plexus(3作目、1971)をカップリングしたCDを注文しました。

 イアン・カーはニュークリアスの前にサックスのドン・レンデルと双頭クインテットを結成して5枚のアルバムを出していますが、その1枚目と2枚目をカップリングした『シェーズ・オブ・ブルー』と『ダスク・オブ・ファイア』を聞いていると、その後のニュークリアスのサウンドからロックを引いたようなサウンドで面白い。ドン・レンデルはおない年のコルトレーンや3才下のソニー・ロリンズの影響を受けつつ、新しいジャズを模索していたように思えます。1926年生まれというから大正15年=昭和元年で義父と同い年。イアン・カーの方は7才下の昭和7年なので僕よりも20才下か。1960年代にコルトレーンの影響を受けつつ、フリー・ジャズやロック的なジャズをやるのに丁度いい年代です。

 ニュークリアスのメンバーに上記の他、カール・ジェンキンス(サックス、ピアノ)やクリス・スペンディン(ギター)などアメリカよりもずっとせまいロンドンを中心にロックやジャズのメンバーの交流、音楽的なクロスオーバーが深く広く実現されていた事がよく分かりました。楽器もシンセサイザーとチェロやオーボエなどクラシックと先端的なロックの異種交流と言うか、ごった煮にならない混沌というか。

 やっぱり若く、時に能天気に明るいアメリカと比較してしまいます。老成しているというか、歴史と伝統の重みに抗いつつ、むやみに突っ走る事はできない抑制的な文化。そして時にはその抑制をはねのけてぶっ飛んでしまう事もある。僕はイギリス文学からスタートしましたが、何か年より臭いというか辛気臭いというか、もっと明るい弾けた若さもあるアメリカ文学の方にシフトしてしまいました。もっと若い時からのアメリカ映画・アメリカ音楽の影響もありますが。しかしそれが60前後からかイギリス文学の落ち着いた雰囲気もいいなと思い、今に至っています。ま、両方楽しめればいいですね。