イギリスのジャズ・ピアニスト、ゴードン・ベック

 2011年に75才で亡くなったゴードン・ベック。フィル・ウッズがヨーロッパ・ツアーの時のトリオ、ヨーロピアン・リズム・マシーンで有名だと思います。それと地元イギリスのジャズ・ロック・バンド、ニュークリアスのキーボードとして。ぼくは好きでけっこう追っかけて、聞いていました。

 ヨーロピアン・リズム・マシーンの最初は1968年のAlive and Well in Paris。リズム・マシーンはジョルジュ・グルンツ(ピアノ)、アンリ・テキシエ(ベース)、ダニエル・ユメール(ドラム)。ジョルジュ・グルンツはビッグ・バンドでも有名。ダニエル・ユメールはドイツのピアニスト、ヨアヒム・キューンのトリオで有名です。僕は一時期ヨアヒム・キューンが好きで、ススキノに近い玉光堂で買っていたら、店員のH本君がまとめて取り寄せてくれました。

Alive and Well in Paris冒頭の曲は同年6月に暗殺されたばかりのロバート・ケネディに捧げたAnd When You Were Young。静かなサックスの導入部とその後の激情的なプレイのコントラストが面白い。その後のFreedom Jazz Dance もStolen Momentsも好プレイ。アルバム・タイトルからも「パリ(ヨーロッパ)にいてほっとした」気分が伺われます。4年ほど滞在(移住)しています。

次が1969年モントルーで同じヨーロピアン・リズム・マシーン。そして次の1970年フランクフルトでピアノがゴードン・ベックに代わります。ここで2年ほど演奏した後、ちょうどフィル・ウッズアメリカに帰った頃、ジャズ・ロックのイアン・カー(トランペット)のバンドに参加。何回か書いているイアン・カー名義のBelladonna(1972)でも演奏しています。そしてそこにも参加しているギターのアラン・ホールズワース。このホールズワースとベックのデュオ・アルバムもあり、音楽的つながりも深そう。そうだ、ケニー・ホウィーラー(トランペット)のアルバムにも参加。

さてイアン・カー名義と書いているのは、イアン・カーwithニュークリアス名義(Labyrinth、1973)もあり、さらにニュークリアス名義(Under the Sun、1974)などが混在するからです。ミュージシャンの自己主張のせいなのか、契約上の問題なのか分かりせんが、ディスコグラフィーの点からはややこしい。

僕的にはアルバムBelladonna1曲目のベラドンナから2曲目のSummer Rainへのつなげ方。そしてSummer Rainのゴードン・ベックのエレクトリック・ピアノの濁った和音も含めての抒情と破壊がとても気にいっています。イギリスってロックもそうだけど、知的な操作と混沌と破壊への志向が共存/混在する部分があるような気がします。ジャズ/ジャズ・ロックでもそのような傾向があるかも。

 でも1991年のビル・エアバンスへのtributeアルバムのFor Evans Sakeでは比較的オーソドックスなピアノです。パーソネルがジャック・デジョネット(ドラム)、デイブ・ホランド(ベース)と強力なので、もう少し暴れて?ほしかった。

 イギリスのジャズ・ピアノってあまりいないし、ゴードン・ベックもそんなに注目されなかった(ような気がする)けど、かなりすごいんだよという気持ちで・・・

 ゴードン・ベックの適当な写真は少ない。理由はこの写真の他のメンバーと違って、ヘア・スタイル、ファッションが普通のサラリーマンのようで地味です。でも音楽はすごい。1979年のSunbirdのジャケット。ご想像のように左上がベック、右上が盟友ホールズワース。左下がフランスのベース、ジャン=フランソワ・ジェニ=クラーク。前述のヨアヒム・キューン・トリオのベースでも有名。右下がイタリアのドラム、アルド・ロマーノ。ミシェル・ペトロチアーニ・トリオのドラマー。