『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』= My Salinger Year


2020年の映画『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』を見ました。1995年20代の作家志望のジョアンナが出版エージェントの会社に入り、サリンジャーと交流を持つ話です。

 主演の女優はマーガレット・クアリー。知らなかったけれど、1989年当時26才だったスティーヴン・ソダ―バーグ監督の『セックスと嘘とビデオテープ』で有名なアンディ・マクダウェルの娘。そう言えば少し似ている。出版エージェンシーの経営者マーガレットにシガニー・ウィ―ヴァ―。クアリーもでっかい(173センチ)けど、並ぶとシガニーはもっとでっかい(182センチ)。だってエイリアンと戦った女戦士だったんですから。

 さて邦題は原題にあるSalingerを避けてニューヨークという人気のある地名を使った。しかしドラマのポイントはSalinger。1996年に『ハプワース16、1924』という中編の出版が企画されるが中止になると言う事件がありましたが、その事件も描かれています。この作品は1965年に雑誌The New Yorkerに発表されたサリンジャー最後の作品です。よく分からないタイトルは1924年にキャンプ地ハプワースに来てから16日目に7才のシーモアが家族の送った手紙の書簡体小説です。

 さて新米のジョアンナは最初エージェンシーに宛てられたサリンジャーへのファン・レターを読んで、それにあった返答例を書いて送る係。彼女自身も作家志望で、詩も書いている。同じく作家志望の書店員と同棲しています。

 電話で初めてサリンジャーと話すジョアンナ。電話では親しくなる。次は『ハプワース16、1924』出版の話で、ワシントンで小出版社の経営者とサリンジャーが打ち合わせをする事を聞きつけて駆けつける。サリンジャーの後ろ姿を見るジョアンナ。つまり最初は声で登場し、次に後ろ姿。

 ちょっとずつサリンジャーとの関わり深くするジョアンナですが、上司のマーガレットの存在も大きい。背も大きいが。キャリアもあり態度もでかい。でもそれが通用するスクリーン・プレゼンス。彼女が恋人の作家を自殺で亡くして職場に出てこないので、ジョアンナはマーガレットの自宅を訪れる。作家との関りを語るマーガレットをハグするジョアンナ。経歴も年も地位も違う人と人との心の交流が表現されます。

 そして作家として生きるために職場を辞めるジョアンナ。最後に初めてサリンジャーに紹介される。そのコートのポケットにファンからの手紙をそっと入れるジョアンナ。サリンジャーが毎日15分でも書き続ける事が作家への道だと言われ、そのアドバイスを守る。

 ファン・レターを書く人物が登場する設定が面白い。ピアスを付けた女子高生、講演に来てほしいと願う校長先生、ホールデン(・コールフィールド)を自分とそっくりだと考える若者。でもこのような若者は世界中にいるけれども。そのように作品に自分を投影したり、影響を受ける事を考えると、作家はそれをどのように受け止めたらいいのかという事も想像してしまう。

 世の中から隠遁してしまったサリンジャーの気持ちも理解できるような気がします。

   出版エージェントと言いましたが、literary agentの訳で、作家と出版社の仲介をする仕事です。日本だと作家は出版社の編集者との関りの中で、出版を決める事が多いように思いますが、契約社会のアメリカでは、作家の代理(agent)で適切な出版社を選び、契約などの交渉を担当する訳です。

  写真はジョアンナがサリンジャーの写真が飾られている部屋でサリンジャー宛のファン・レターを読んでいる場面。オフィスにはこのエイジェンシーが関わっている作家の写真がたくさん飾られていました。