1947年ロサンゼルス郊外でエリザベス・ショートという22才の女性が惨殺されたが、その事件は未解決となった。彼女の死がいろんなノンフィクションや小説になっているのは、若い女性の猟奇的ともいえる殺人事件の背後に、戦後ロスの犯罪だけでなく政治や汚職にも関わるようなスキャンダラスな言説を呼び込むような要素があったからだ。
この事件を「ブラック・ダリア」というのは、前年の映画、アラン・ラッドとヴェロニカ・レイクの『青い戦慄』(Blue Dahlia)に由来すると言われています。この映画、レイモンド・チャンドラーのオリジナル脚本なんですが、帰還兵が巻き込まれる殺人事件(妻が殺され、夫である自分が容疑者になっている)をフィルム・ノワール風に撮っています。
フィルム・ノワールと言えば、アラン・ラッドは日本では『シェーン』(1953)で有名ですが、実はそれ以前のB級フィルム・ノワールの俳優として評価されいます。しかも1949年の『暗黒街の巨頭』は原題がThe Great Gatsby。つまり反成長小説と僕が名付けたあの20世紀前半の名作が原作。そして残念ながらアラン・ラッドもヴェロニカ・レイクも50才でアルコールで亡くなっています。
自分でも論文を書いた事のあるジェームズ・エルロイの『ブラック・ダリア』(1987)がありますが、2006年にブライアン・デ・パルマが映画化しました。エルロイのLA4部作では『LAコンフィデンシャル』の方が出来がいい。エルロイ自身が母親を殺人事件で失っているのは有名ですが、ボッシュもフィクションですがブラック・ダリヤをなぞるような事件で母を亡くして、孤児になっています。その謎をボッシュが探偵するのが『ラスト・コヨーテ』です。
でやっと『ラスト・コヨーテ』の話ですが、次回に詳しく。
「ブラック・ダリア」では適切な写真がなかったので、『青い戦慄』から。