サリンジャーとオートマチック

     

 

 Catcher in the Rye(1951)の次に出した短編集Nine Stories(1953)の1つ目A Perfect Day for Bananafishは16頁の短編です。短いですが最後にグラース家サーガの主要人物シーモアが自殺してしまう重要な作品。しかしその銃の操作に問題があるように僕には思えます。

 シーモアは6.75㎜口径のオルトギース(ドイツの自動拳銃)を弾倉を取り外し、それを眺めて、また元に戻します。その後が問題。

 He cocked the piece.

  野崎孝・繁尾久訳は「彼は撃鉄を起こした。」とあります。う~んと翻訳はOK。でもオルトギースについて調べるとハンマーレスとあります。ハンマー(撃鉄)がない。じつはハンマーレスには2種類あって、撃鉄が内蔵されているタイプと、本当に撃鉄がなくて代わりにストライカー(撃針)が銃弾のプライマー(雷管)を名前通り叩く。

 ただ当時はハンマー内蔵だったのではないでしょうか。いずれにしてもcock the pieceという操作はないように思えます。で、それを解決するのが竹内康浩訳の「彼は銃のスライドを引いた」(『謎ときサリンジャー』新潮社、2021年)です。そうなのです。弾倉をグリップに入れたら、スライドを引いて、最初の弾丸を薬室(チェンバー)に入れて発射準備OKです。

 ただ作者の間違いはそのまま?サリンジャーは第2次大戦のノルマンディー上陸作戦と言う連合軍と枢軸国の雌雄を決する重大な戦闘にも参加した兵士です。歴戦の強者とまではいわなくても、銃の構造や操作については知っていたはずです。ですからちょっとした間違いと考えればいいのか。もうちょっと重大な間違いなのか。そのあたりを竹内先生とお会いする機会があれば確認したい。

 写真はオルトギースと、撃鉄がむき出しのコルト・ガバメント