My Foolish Heart――サリンジャーとビル・エバンス

これは前にも書いたかな。ちょっと理由があってまたサリンジャーを読んでいます。Nine Stories(1953)の1番目の短編A Perfect Day for Bananafish、そして2番目の短編がUncle Wiggly in Connecticut。翻訳は「コネチカットのウィグリおじさん」。で「ウィグリおじさん」って誰?と思います。これが100年前にアメリカで流行った漫画シリーズ。リュウマチのウサギのお祖父さんが主人公。絵を見るとこわい顔のときもありますが、だいたいは優しいそうなお祖父さん。いつも写真のように床屋の看板のような模様の杖を持っています。

 サリンジャーの小説では、主人公のエロイーズが昔の恋人ウォルト(グラス家の3男)の事を友人のメアリー・ジェーンに話す。バスに追いつこうとして転んだ時にウォルトがエロイーズのくじいたくるぶし(ankle)にひっかけてUncle Wigglyとからかう。第2次大戦後の占領中の日本で事故死(戦死ではない)した昔の恋人がエロイーズの心の中で大きな位置を占めている。グラス家にまつわるサーガのなかの1エピソード。

 でこのUncle Wiggly in Connecticutが1949年に『愚かなり我が心』というタイトルの映画になって、ヴィクター・ヤングの主題曲My Foolish Heartがヒットしました。日本では曲がヒットしたので映画が公開されたらしいです。僕は『映画の友』で主演のスーザン・ヘイワードの写真を見てこの映画について知っていました。中学か高校の頃。

 で大学の時にビル・エバンスを聞くようになって、スコット・ラファロの参加する例のリバーサイド4部作。3作目のWaltz for Debbieの冒頭のMy Foolish Heartにはしびれた。もちろん2曲目のタイトル・チューンWaltz for Debbieのかわいらしさ?もいいんですが、My Foolish Heartの沈み込むようなロマンティシズムはすごかった。耽美的なビル・エバンスのピアノを伴奏するような、鼓舞するような、自在なフレーズのスコット・ラファロのベース。他のモダン・ジャズとは違って聞こえた。

 映画の方は昔の恋人の事を懐かしむアル中気味の女性のセンチメンタルな描き方であまり評価は・・・しかも原作者のサリンジャーも映画の出来に不満で、それ以後サリンジャー作品の映画化は不可能になってしまったんです。

 僕的には大学生のころに聞いたビル・エバンスのMy Foolish Heartが、英文科で学ぶようになってサリンジャーの原作の映画化された時の主題曲だと知りました。あとは不可解な原作のタイトルの意味をネットで漫画にあったという情報が有効でした。「ウィグリおじさん」って何なのかが分からないと、上記の洒落の意味が分からない。それが小説全体の中で何か意味を持つのか/関係ないのか。

 それは今読んでいるサリンジャー研究では意味がありそうで面白い。Wiggly=ひょこひょこ?足が悪い点が他の短編にも出てくる象徴的な意味。義足とか足が悪い事の意味。すぐ思いつくのはミステリーの元祖とも言えるオイデプス(エディプス)の語源が「腫れあがった足」、踵に傷がつけられる。それは母親が付けた息子の印となります。つまり「傷のある足」≒足が悪い、歩けない、義足、等々、拡大してアイデンティティや謎の手掛かりとなる。う~ん、文学研究って、深い。でもそれにどのような意味があるのかを考えると、また違う意見もある(ような気がする)。