手紙と電話の物語

 また『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』です。自分でもけっこうしつこいと思いますが。よく読むとお祖父さんとお祖母さんの時代は手紙でした。お祖父さんはドレスデンの爆撃で恋人と彼女のお腹にいた子をなくしてNYに逃れてきます。そこで恋人の妹と出会い結婚。しかし妻に子どもができたと知ると妻を捨ててドレスデンに戻ります。これはなき恋人と生まなかった子どもへの贖罪なのでしょうが、生まれてきた子どもへの父としての責任放棄となる。

    そのためでしょうか、お祖父さんは息子(オスカーのパパ)への手紙を書こうとたくさんのメモをしたためます。これは「出されなかった手紙」。そして息子の死を知ってNYに戻ります。

 祖母も孫のオスカーに向けて、自分の少女時代について手紙を書きます。この辺はややこしいので省きますが、ある事情でたくさんの手紙を受け取り、それが爆撃で家が燃えた時に火の勢いを増したと感じ、しかも家の下敷きになった父を助けることができなかったと後悔します。

    トマスJr(オスカーのパパ)の時代は電話。そしてオスカーはタワーからの父の電話に出ることができなかった。ある意味で手紙(メッセージ、現代では電話)の受け取り拒否。届かなかった手紙の現代版です。受け取らなかった、というよりも受け取れなかった。どんな恐ろしいメッセージを聞かされるか分からないから。でもその記憶がオスカーをさいなみ、時に自傷行為にも。

    そしてオスカーは父に関わる鍵について調査をすることで、父の最後の電話に出らなかった事の償いをしようとします。ここでも封筒に入った鍵。封筒にはブラックとだけ書かれている。これも届かなかった手紙。最後にはウィリアム(・ブラック)が鍵の持ち主で、亡き父からのメッセージがあると思われる貸金庫の鍵だった。しかしあまりいい関係ではなかった父からのメッセージは、知りたい/知りたくないの間を揺れ動いている。この鍵の入った封筒は、オスカーのパパに誤配されて、ついに正しい受け取りてウィリアムの手に届けられた。しかし、ウィリアムは受け取りたくない気持ちもあるので、これも一種の誤配。この点については前にブログでふれました。

   オスカーとお祖父ちゃんは、空っぽのトマスJr(オスカーのパパ、トマスSrの息子)の墓を掘り起こし、トマスSrからのトマスJrへの手紙を入れて、再度の本当の弔いをします。この喪(mourning)のためにトマスSrはドレスデンからNYに来たのでした。そしてオスカーはそのためにNY中を歩き回ってブラック(472人)を探したのでした。

    お祖父ちゃんの手紙も無事?息子に届けられ、パパのメッセージ(留守電)をお祖父ちゃんと聞いて、これも息子(オスカー)に届きました。お祖母ちゃんの手紙は、これからオスカーが読んで、家族の、ユダヤアメリカ人の歴史を知る事になります。