『田園発港行き自転車』、タイトルにも自転車が・・・

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近藤史恵の自転車レース小説『サクリファイス』の次に宮本輝の『田園発港行き自転車』を選んだのは偶然です。

 宮本輝は父親の伝記的な「流転」シリーズはタイトルもふくめて苦手で近づいていません。それ以外の文庫はけっこう読み続けていて、その流れで『田園発港行き自転車』にたどりつきました。

 自転車がらみでは、主人公の絵本画家(30代の女性)は母の実家が自転車部品の創業者で、社長を継いだ婿養子の父親が15年前に急死したんです。自転車についての話が何か所も出てきて。

 父親は家族に宮崎に出張だと言いつつ、富山の滑川駅に自転車でやって来てそこで心筋梗塞で亡くなる。

 その謎を解く意味もあって、15年後に娘は亡くなった場所を探すのですが、一緒に旅する編集者/友人の知り合いがバイク好きでビアンキとかBHとかいう有名なツーリング用の自転車を彼女たちに貸してくれる。

 そして父の子を産んだ女性が滑川で美容院を営み、その少年は5才の時に大好きな絵本の作者にファンレターを送り、作者は丁寧な返事を書きます。お互いに母親の違う姉弟とは知らずに。少年はバイク好きで、買ったミニベロは会った事のない父親の会社の変速ギアが付いている。父親の番頭格だった人物が次の社長になっていて、亡き社長の忘れ形見の中学生の少年に高校進学のお祝いに本格的なロード・バイクをプレゼントすると約束します。

 そして最後はまたも自転車で弟の家の近くにやってきた姉が弟と顔を合わせる場面で終わります。けっこう人間関係がややこやしいですが、ほとんど善人ばかりの登場人物で、下巻になってその複雑な関係が解きほぐされるのも心地いい。そうだ、ゴッホの『星月夜』が、絵本画家が父親から日本でも似たような風景があると言われ、それ父の亡くなった町の橋である事を知るエピソードに使われています。その模写をしたり、プロの模写の『星月夜』を手に入れてがっかりしたりとか。

 なかなかいい読後感ですが、文学的にどうとか言うのではないですね。表紙にも写真が描かれています。ちょうど夕方散歩利していたら、高校時代の同級生が自転車で通りかって雑談をしました。ちゃんとヘルメットをかぶっれ、本格的な自転車でした。