ロード・レース小説『サクリファイス』

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 ツール・ド・フランスの名前くらいしか知らないのに、近藤史恵の『サクリファイス』(新潮文庫)を読んでしまった。たぶん自転車に関心があるせいでしょう。電動アシストなんて老人向けの自転車に乗っているのですが。でも電動アシスト自転車もe-bycという風に少しおしゃれな感じで売ろうとしている。特にクロス・バイクというロード・レース用とマウンテン・バイクの両方に共通する(横断する≒クロス)というコンセプトですが、タイヤが28㎜で細い。最もロード・バイクなんかはもっと細い25とか22とかあるのかも。

 それできれいな舗装の道路を走るとすごくなめらかで快適なのですが、そうではない道を走る事の方がずっと多くて、それとパンクも多くて、後輪だけ32㎜に変えました。スピードに弱い僕は坂道で時速30キロくらいでるとびくびくするのですが、『サクリファイス』を読むと80キロも出るときもあるとか。それで事故につながる時も。その事故も2回もあってストーリーに大きく関わってきます。

 『サクリファイス』の主人公は陸上の中距離でインターハイの覇者でもあった白石誓(ちかう)。走って勝つことの重圧から逃げ出したくて自転車レースの世界に飛び込んだのだった。『サクリファイス』の主人公の生き方が面白いような、どうも分からないよう気がして。テキスト・クリティックでもするかのように何度も読んでしまった。あまり長くないせいもある。

 走る事は好きだったけれど、ゴールが輝いて見えなかったという主人公。自転車のレースでは、チームのエースにアシストする役割のレーサーがいて、そんな勝ちにこだわらない位置が白石は好きだったようだ。それでも何日も続くレースのステージ優勝というのには理屈でなく喜ぶ。全体の総合優勝のほかに、平坦部とか山岳部とか、その日その日のステージでの優勝もあるようだ。

 というのは、自転車レースのルールがけっこう難しい。個人と団体、総合と日によってのステージ優勝、国内とコンチネント(欧州がメインなので、ヨーロッパ大陸のこと)などなど。それとチームの中でのエースとアシスト。で、かなりの運動能力のある誓はアシストのポジションが気に入っているのだけれど、監督からエースの期待もあって、それが負担にもなり、でもそれもいいかなとの思いに揺れる部分も。

 結局、主人公のキャラクターがある程度才能があるけれど、そんなに自分が自分がと主張しない点が好感が持ててて、しかもロード・レースというあまり知られていないジャンルで、アシストというある種の自己犠牲(サクリファイス)が求められるポジションがぴったりはまるのではと思いました。