『さすらいのカウボーイ』と原題The Hired Hand

f:id:seiji-honjo:20210929062615j:plain

ピーター・フォンダの初監督作品『さすらいのカウボーイ』(1971年)がなぜか記憶に残っています。特に好きな俳優でも監督でもないけれど、作品が印象的。

 今度も英語のタイトルにこだわりますが、内容にかかわりますので。The Hired Handは使用人、(農場の助っ人的な)雇い人の意味です。7年も妻子と農場をほったらかしていた夫が戻っても妻の方は簡単に許すことができず、「雇い人」として納屋に寝るのならと許可を出します。

 この映画の英語のwikiの説明文にあった表現ですが、saddle tramp、つまり馬に乗って放浪の相方はアーチ―。演じるウォーレン・オーツは、『ワイルド・バンチ』(1969年)で主役グループ(バンチ=一団ですから6人もいます)の一人となり、最近亡くなったモンテ・ヘルマン監督の『断絶』(1971)には二人の主役の一人となり、『デリンジャー』(1974)、『ガルシアの首』(1974)ではピンの主役になります。僕的には『夜の大捜査線』(1967)での田舎の偏見に満ちた、署長にはおべっかを使ういやらしい白人警官がとても印象に残っています。ピーター・フォンダもスター性の乏しい?ルックスですし、それが普通のカウボーイのように見えてリアルでした。

映像がとても印象に残りますが、撮影監督はハンガリー出身のヴィルモス・ジグモンド。自然を陽光の中で、とらえる。スローモーションの多用がゆっくりとした時間の流れを象徴しているようです。ジグモンドは『スケアクロウ』(1973)、『未知との遭遇』(1977)、『ディア・ハンター』(1978)も。シェッツバーグ、スピルバーグマイケル・チミノ監督だけではなく、オルトマンとは3本も撮っています。

 それとほっておかれた?奥さん役のヴァーナ・ブルームが地味でいいです。マーティン・スコセッシ監督の『アフター・アワーズ』(1985年)や『最後の誘惑』(1988年)でキリストの母マリア役で出ています。

 あまり名作・傑作として人に知られている作品でもないし、僕は何となくいいなと思っていました。『イージーライダー』のイメージからか、ヒッピー・ウエスタンとして否定的だった評価がありました。しかしそれもminor western classic とかthe least-known great moviesとされるようにもなっている。でも それって過大評価だという声もあるそうです。そう、佳作レベルではないでしょうか。

 『70年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)では、やはり『イージーライダー』の印象から、「放浪からの帰還」と位置付けていましたが、主人公のハリーはアーチ―が敵につかまっている事を知ると救出にかけつけます。しかし農場に帰ってくるのはアーチ―のみ。ハリーが死んで、今度はアーチ―がThe Hired Handになるのか。7年間不在の夫が帰ってきて、またいなくなり、今度は夫の友人が戻ってきてそれを受け入れる。おおきな自然とゆったりとした時間の中では、それはそれで不自然ではないとも感じられそうです。

 ピーター・フォンダの主演でもう1本『怒りの山河』(Fighting Mad、1976年)が気に入っていました。ちょっとやくざ映画的なストーリーですが、監督がジョナサン・デミなので納得。あざっとい展開については、製作がロジャー・コーマンと知ってこれも納得。いい意味で。

 トム(ピーター・フォンダ)が、5才の息子を連れ、アーカンソーの農場の父のもとへ帰って来た。だが石炭の業者が政治家と手を組んで、農民の土地を強制的に買い上げようとしていた。賠償訴訟を起こしていたトムの弟のチャーリー(スコット・グレン)が業者と政治家の陰謀のよって夫婦ともどもが事故で殺され、反攻にでる中、父も殺されてしまう。なんかストーリーを書いていてあまりに普通の復讐劇だけど、主人公の我慢する程度が強いぶんだけ、やくざ映画の構図に似てきて、そのぶん報復に共感してしまう観客。監督がうまいのかな。