『感情教育』、恋愛と革命

  フローベール、1869年の自伝的な作品です。う~ん、イギリスの『人間の絆』とはちがうなぁ。まず恋愛が多い。主人公のフレデリック・モロー、18才から45才までの4人の女性との愛の遍歴というか。L’Education sentimentl のsentimentalはあのロレンス・スターンのSentimental Journeyからフランス語の語彙になったと解説にあります。「恋愛指南」のような意味合いでのL’Education sentimentlか。それもアイロニカルな意味で「(失敗した)恋愛教育」。主人公については教養小説ではなく、反教養小説。題名に準じて名付ければ反教育小説としての『感情教育』。

  それと革命と王政復古とまた革命と続く激動の時代に生きた作家の自伝的小説なので、政治小説歴史小説でもあるし。パリを舞台とした都市小説でもある。光文社古典文庫の訳には、パリの地図もついてあり、場所についての頁左にある注もかなり多い。それに登場人物がみな人生に失敗するようにもみえます。

 さて小説の冒頭でフレデリックは大学受験に合格して郷里に向かう船上で美術商のアルヌーに出会い、彼の妻マリーに一目ぼれをします。舞台は1840年1830年に起きた7月革命による立憲君主制の王政が終わる頃です。

 うろ覚えのフランス革命の復習をしました。

 1789年バスティーユ獄の襲撃ではじまったフランス革命は、ジャコバン派の恐怖政治の中、王様と王妃などが処刑され、少し揺り戻しがあって、1795年に共和制憲法が成立する。しかし、フランスに起きた革命に驚き、自国でも革命が起こる事を恐れたまわりの国々との戦争に勝った英雄がナポレオンです。1799年のクーデターを経て、総裁政府から移行した統領政府を代表し、1804年皇帝になる。これがよく分からない。軍事的天才であったのだと思いますが、革命を起こして絶対王政をぶっ潰したのに、皇帝になる=帝政をしくなんて。

 しかしナポレオンはその後ロシア遠征に失敗して失脚。また一度復活するけれど、有名なワーテルローの戦いに負ける。その後1814年にイギリスに亡命していたルイ18世が呼び戻され王政復古。ナポレオンが再び皇帝に返り咲きますが、すぐにルイ18世がまた王座について第2王政復古。そして貴族や大地主の支持を受けたシャルル10世が即位して革命前の社会に回帰しようとすると、1830年には前述の7月革命が起きます。と言ってもまた王政なんですね。ルイ=フィリップ王による立憲君主制。7月王政とも言うらしい。でも選挙制度の不平等が残り、労働者、農民による階級闘争がはじまります。小説の後半で描かれる1848年には2月革命が起きます。

 さて小説に戻ると、郷里からパリに出て、フレデリックは友人たちと付き合いながら、アルヌー夫人への思いを心に抱きつつ、あまり意欲のない生活を送ってしまいます。法科学生なんですが、あまり法律に興味がなく、何となく絵をはじめてみたり。後半では勧められて代議士になることを検討したり。最後まで意欲についてはこんな感じで、教養小説ではなく、非教養小説でもなく、どちらかというと反教養小説かな。漱石の主人公のような高等遊民的な生き方というか。『批評の生理学』で有名なティボーデも『フローベール論』で指摘しているように、感性にめぐまれてはいるが、情熱もまた弱々しい凡庸なフレデリック。だからフレデリックの求めるものはいつも彼から逃げていく。と言うか、きちんと求めないから手に入らない。その中では、アルノー夫人への思いだけは持続する。

 アルノー氏の美術工芸店に出入りするようになり、ジャーナリストや画家と知り合うけれど、目的はアルノー夫人に近づく事。しかし帰郷したフレデリックは母親から家の財政状態が思わしくない事を知らされ、パリでの生活も将来もあきらめ、失意の数年を送ります。これが1843年秋からの事です。母親は貴族の旧家の出らしいが、平民の父親と結婚し、彼は子供(フレデリック)が生まれる前に決闘で死んでしまいます。でもそこそこ土地があるらしい。その管理というか運営が景気のせいかうまくいかなくなったようだ。ところが1845年伯父が亡くなって全財産を相続する事になります。伯父とは自分も母もあまり関係がよくなったけれど、遺書を書かなかったので、結果的に甥に遺産がいった。

 もちろんフレデリックはまたパリに出て、友人たちとの交流も復活し、事業に失敗したアルノー家を助ける事もできるようになります。そして1848年2月28日2月革命が勃発した日。夫人と逢引する約束を取り付けて部屋も準備したのですが、好事魔多し?子供が病気にかかり、これを天罰とまじめに考えた夫人は会いに来ません。

 そして革命は登場人物の生活も大きく変える事になります。フレデリックは25才。

 ここまでほぼ2000字。続きは明日に。

 写真はフランスでの同作の本の表紙。フレデリックは自分で鏡をみて認めるような美男子です。写真はかわいらしい少年ですが。いずれにしても、うらやましい。

f:id:seiji-honjo:20210919063413j:plain