『戦場にかける橋』と『猿の惑星』

 始まりは散歩中に雨宿りしていた時に話したアイルランド人の男性(55才)が自分はコーネリアスというんだが「コンちゃん」と呼ばれていますと言っていた事。後でコーネリアスを調べたら、思い出した。あの『猿の惑星』の主要登場人物の名前でした。とらえどころのない俳優のロディ・マクドールが演じていました。「とらえどころのない」と言うのは子役時代からいろんな役を演じてきていて、どんな俳優なのか説明がしにくいという意味です。さてこのコーネリアスは『猿の惑星』で主演のチャールトン・ヘストンの次に来る重要な役どころで考古学者。恋人のジーラ博士(キム・ハンター)と一緒にテーラーチャールトン・ヘストン)を逃がそうとします。

 興味深かったのは、原作がフランス人の作家で、彼は『戦場にかける橋』の原作者でもありました。ピエール・ブールという1912年生まれの人です。彼の第2次大戦中の体験がのちの2作のもとになっているようです。権力と戦う、支配者に抵抗するという構図だろうか。

 ブールは戦争がはじまると当時フランス領だったインドシナで徴兵されます。しかしナチス・ドイツがフランスを占領して親ナチス政権になると、ドイツに抵抗する自由フランス軍に加わります。

 レジスタンスとしてアジアで活動していると1943年に日本軍の捕虜なった。翌年捕虜収容所を脱走し、インドで終戦を迎えます。このレジスタンスとしての活動の詳細については別の説もあるようです。例えばブールの身柄は日本軍から植民地政府軍(親ナチのヴィシー政権)に引き渡されただろう、とか。

 いずれにしても戦後レジオンドヌール勲章、軍功章などを受賞したので、戦時中アジアでちゃんと?レジスタンス活動をしたと思われます。その経験が代表作に反映したと考えていいでしょう。

 有名な2作品の原作者が同一人物で、そこから2作品に共通するテーマが浮かび上がってくるという話です。

 捕虜体験をもとに、『戦場にかける橋』では征服者としての日本人と被征服者としてのイギリス人。『猿の惑星』では征服者としての猿と被征服者としての人間が、征服者としての猿(日本人)と被征服者としての人間(フランス人)にもなり、赤狩りを経験した脚本家の手にかかれば、当時さかんになりつつあった公民権運動をふまえて、支配/被支配関係を逆転させた征服者としての猿(黒人)と被征服者としての人間(白人)にも敷衍される。このあたり、原作者の意図は超えていますが。

 『戦場にかける橋』は困難な状況における矜持と、それを理解する支配者側という、何か軍人同士の仲間意識に回収されたようで、あまりすっきりしない。でも『猿の惑星』が2017年の9作目まで作られた物語の普遍性、強度などの理由については知りたい。しかしそれを考える能力と気力はありません。

 写真は『猿の惑星』の4作にコーネリアスとシーザー役で出ているロディ・マクドールの『死の方程式』(1972年)でコロンボ刑事と。

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『死の方程式』にはロディ・マクドールが出ていない第2作『続・猿の惑星』でウルサス将軍を演じたジェームズ・グレゴリーも出演しています。