1984年サマーセット・モームはパリで生まれました。父親がイギリス大使館の顧問弁護士をしていたからです。しかし社交界の花形だった母親が8才の時に結核で亡くなり、父は10才の時がんで亡くなり。、孤児になってしまいます。漱石と7才しか違わないんですね。イギリスの父方の叔父(牧師)に引き取られる。
『人間の絆』をキンドルで読んでいます。けっこう面白く読み進められる。『人間の絆』は1915年モーム41才の時の自伝的小説として有名ですが、僕的には1964年の映画『人間の絆』のキム・ノバックの煽情的な?写真で強烈に印象付けられました。中学生の少年にはポルノ的?と映ったのでした。もちろん後から英文科の学生としてモームの自伝的な教養小説として見直すことになるのですが。
手元にあった河出書房新社の『世界文学全集18 モーム』の訳は阿部知二・中野好夫ですが、解説は朱牟田夏雄。岩波のモーム関係の本は行方昭夫なのですが、少し気になって調べてみると、朱牟田~行方さんは師弟関係のようです。朱牟田(しゅむた)さんの方はトリストラム・シャンディの研究で名前は知っていましたが、モームについて論じるとは。
『人間の絆』に戻ると、この作品は1934年にレズリー・ハワード主演で『痴人の愛』という変な邦題で紹介されています。たぶんすでに発表されていた谷崎潤一郎の『痴人の愛』(1925)をパクったのでしょう。奔放な女性に翻弄されるという点では共通しています。キム・ノバックがのちに演じた悪女ミルドレッドはここではベティ・デイヴィスが演じています。そして1946年版は『カサブランカ』のポール・ヘンリードがフィリップ、ミルドレッドはエレノア・パーカーが演じます。
両親に死なれ孤児となったフィリップは、牧師の伯父(実際は叔父)に引き取られます。モームの吃音は小説では足の障害に変更されています。聖職者になってほしいという伯父の要望を断り、ロンドンで法律事務所の書記(会計事務)を始めますが、やはり芸術への希望がつのり、退社してパリに絵の勉強に。その際伯母がなけなしの貯金を旅出に与えてくれます。
若き画家志望の仲間とのボヘミアンな生活が前半の後半の中心になります。芸術論や人生論、イギリス人やアメリカ人、スペイン人、哲学的な老詩人など老若男女の人生模様が描き分けられる。フィリップは聞き役になる事が多い。モーム本人は最後まで吃音で悩んだようです。友人とアトリエと寝室に使えるアパートを初めて借りることにした時の気持ちの高揚も初々しい。
そして才能がなく人付き合いの悪い画家志望の女性の死。口の悪い嫌われている人物の唯一の話相手だったフィリップは彼女の兄に連絡して、ささやかな葬式の手配も含めて面倒を見てあげる。そして唯一の家族とも言える伯母の死に際し帰郷し、自分も画業に見切りをつけて、医師だった父親の跡を継ぐべくロンドンの医科学校に入学します。
この後半は前述のミルドレッドとのくっついたり別れたりが少しうっとうしい。次項でモームの受容について書いてみたいと思います。