『トランク・ミュージック』(1997)で捜査中にラスヴガスでエレノア・ウィッシュと再会し、ハワイでボッシュには似合わない新婚旅行がラストでした。それはもう次作『エンジェルズ・フライト』(1999)では別居寸前の状態です。でもどうも満たされないエレノアの気持ちがきちんと描かれていない。そして『夜より暗き闇』(2001)と『シティ・オブ・ボーンズ』(2002)では登場・言及なしで、若い女性警官と短いかかわりを持ちます。『シティ・オブ・ボーンズ』の最後でボッシュが市警をやめて私立探偵となった『暗く聖なる夜』(2003)ではエレノアは「元妻」となっています。
しかし、ラスヴェガスでプロのポーカー・プレーヤーとなっているエレノアに、捜査のために自分がロスを離れてラスヴェガスにいるように見えるようにするためにボッシュは自分のクレジット・カードを渡し使ってくれるように頼みます。もちろんそれはエレノアと何らかのつながりを持ちたいボッシュの強い思いから。
で捜査が終わって、ボッシュは教えたがらないエレノアの住まいを突き止めて訪れると、そこにエレノアと自分に似た4才の少女を発見することに。『暗く聖なる夜』の原題はLost Light。ついに一度は失われた光を見つけたボッシュで物語は終わります。
しかし『天使と罪の街』(2004)ではカード・プレーヤーとして夜家を空ける母親に異議を唱えるボッシュとウィッシュの中が険悪に。事件は『ザ・ポエット』(1996)のバッカスが再登場して、『ザ・ポエット』の事件で失態し左遷されていたFBI捜査官レイチェル・ウォリングが呼び出されます。もう1本のストーリーは亡くなったテリー・マッケイブの妻グラシアが病死に不信を抱いてボッシュに捜査を頼みます。こちらの方は副筋というか、あまり読んで興味がわかない。結末を知っているせいか。でもこれもバッカスにつながります。
レイチェルとは捜査中の危険な事件を一緒に潜り抜けた事によるのか、関係を持ちます。しかし彼女が嘘をついていた事がわかり、もう会わない事に。『天使と罪の街』の原題はThe Narrowsで「狭い場所」という意味ですが、雨で氾濫したロサンゼルス川の支流の水路を指すようです。また幼い時に母親に「狭い川」に近づかないように言われた事も思い出します。この作品では主筋と副筋とは別に、娘と会う時に母親との思い出がセットになって描かれます。
翻訳の方は「天使の街」=ロサンゼルス、「罪の街」=ラスヴェガスという対比で、ボッシュは娘をラスヴェガスから自分のいるロスに引っ越させたいと考えて、元妻に反対されています。もちろんロスが名前の通り天使の街ではない事はボッシュも十分承知ですが。『終結者たち』(2005)でまたロス市警に戻ったのは、幼い娘のためだったのかもしれません。