『東京に暮らす―1928~1936―』、他者承認をこえて

f:id:seiji-honjo:20210303062618j:plain


 中野翠さんの書評集『アメーバのように。私の本棚』(ちくま文庫)で教えられた外国人による日本人論的なエッセイ。イギリスの外交官夫人キャサリン・サンソムによるものです。外部から一時的に来訪した人の単純な日本人礼賛とそれを有り難がる日本人。他者から、それも特に西欧から認められると嬉しがるのが少し情けない。それって西欧を上位自我の様にとらえての他者承認の要請なんですね。そんな本が多いような気がして敬遠していましたが。

 しかし『東京に暮らす』は違った。日本人の欠点についての正直に指摘した上での日本人の美質についての描写が、女性ならではの生活の細かい観察が面白い。

 挿絵はマージョリー・西脇と言って詩人の西脇順三郎の夫人だったひと。僕は教養時代に西脇の詩を読んで英文科に決めたようなものだったので、西脇という名前が出てくると反応します。イギリス留学中に知り合ったマージョリーさんと結婚して帰国しましたが、残念な事に後に離婚。西脇も最初は画家を目指したぐらいなので、絵を描くマージョリーさんと気が合ったのでしょう。彼女イラストのタッチは太めの一筆のようでおおらか。よく分からない絵もありますが。表紙に使われた赤ちゃんを背中におんぶしてもう一人を前に抱えて日傘をさしている若いお母さん。あまり見た事のない風景ですが、外国人が好意的に誤解しているようで微笑ましい。