キップ・ハンラハン、音楽のディレクター

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  1954年にニューヨークのブロンクスユダヤ系の家に生まれたキップ・ハンラハンVertical's Currency (1984)の2曲目Shadow Song(Mario's In)をまず聴いてしびれた。ラテン・パーカッションとそれに続く分厚いホーン・アンサンブルそしてジャック・ブルースのかすれ声のささやき。寄り添うようにまたはぶち壊すようなデイヴィッド・マレイのサックス。

 主としてジャズのレコード、ライブのプロデューサーとして知られるキップ・ハンラハンのアルバムにおける役割は説明がむずかしい。彼の名前で出したアルバムにおける役割を映画監督に擬せられる事もあると言います。つまり音楽ではプロデューサーは制作の責任者ですが、実際に演じるのはミュージシャンで主役。映画では俳優とプロデューサーの間に監督がいて制作・脚本・俳優の上にいる。映画と言う総合芸術の責任者は監督。

 でハンラハンは単なるプロデューサーにとどまらない、映画の監督に近い存在の様です。またはオーケストラの指揮者にも近いかな。僕はここで音楽ジャンルの越境だけでなく、役割の越境/混交もあるかなと思いました。

 しかも彼が起用したミュージシャンにはドン・プーレンも出てくるし。ロックのスティングやジャック・ブルースの起用も興味深い。またヌーヴォ・タンゴの大物ピアソラも起用したり、作家のイシュメル・リードとタジ・マハールを同じアルバムで共演させたり、演奏者のジャンルもクロスオーヴァー

 ただハンラハンの音楽に詳しい人によるとVertical's Currencyは聞きやすい方向に行った安易なアルバムでCoup de tête (1981)の方が本物だと言うけれど、これは手ごわい。なかなか聞いてすぐに理解できません。