勤労青年と教養

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 朝日の土曜朝刊は書評が4面ほどあります。今回は立教の生井英孝さんが書いた書評に注目。生井さんは30才ちょっとで出した『ジャングル・クルーズにうってつけの日 ヴェトナム戦争の文化とイメージ』(1987年 )で有名です。この名著はちくま学芸文庫を経て岩波現代文庫にもなりました。もう1冊は『負けた戦争の記憶 歴史のなかのヴェトナム戦争』(三省堂 2000年)、これも授業で使わせてもらいました。2才年下の生井さんはガタイのいい爽やかな(元)青年で、何回か懇親会、飲み会で話しました。

 さて書評された本は『「勤労青年」の教養文化史』(岩波新書)で、立命館福間良明さんが出した本です。

 僕が反応したのは「勤労青年と教養」というフレーズで、イギリスのカルチュラル・スタディーズを連想させました。訳せば「文化研究」という普遍的な言葉になってしまいますが、スチュアート・ホールらが1964年にバーミンガム大学に設立した現代文化研究センター(CCCS - Centre for Contemporary Cultural Studies)が起源で震源地となった学際的な研究方法です。

 学部か大学院時代に先輩にレイモンド・ウィリアムズの『文化と社会』を読むといいよと教えられました。レイモンド・ウィリアムズはウェールズの労働者階級出身の学者で当時のニュー・レフト、マルクス主義者で作家でした。地域と階級の2重のマイノリティである彼がケンブリッジ共産党~陸軍(志願)、そして戦後成人教育に携わった時に、それまでの文化が高等教育を受けた階級の高級文化であって、普通の庶民の大衆文化を文化として位置付けたのが、後のカルチュラル・スタディーズにつながります。

 それは人種、階級、ジェンダーイデオロギー、地域、時代と密接に複合的に関連するので、どのスタンスに立つかで強調するもの、否定するものが微妙に食い違う事も生じます。いずれにしても一時代を席巻した研究方法の一つの成果が『「勤労青年」の教養文化史』にあって、それもそのような有効な手法が今も生き続けている事にも興味を覚えました。つまり労働者階級の若者(農村青年や集団就職の若者)が愛読した人生雑誌(というのがあるんですね)から進学組と就職組の区別が貧富の差から生じて、それが差別された側のルサンチマン(恨みのようなもの)になる。そのような「悔しい思い」を見つけ紹介する意味は大きいと思いました。

 写真は久しぶりに行った西28丁目の「ノース・コンチネント」というハンバーグ屋さん。ラム肉はなくて鹿肉のハンバーグを食べました。ここはビールとワインも美味しい。