2001年にヒップホップ論を書いた時、ヒップホップ・ソウルが流行るんじゃないかなと思いました。ラップの喋りだけではバックにブレーク・ビーツと言うサビのループがあっても退屈になる時間があります。それがソウルの音楽と合わせるといいのではと。
そのヒップホップ・ソウルのスターがメアリー・J・ブライジと後輩のローリン・ヒルでした。ローリン・ヒルは『天使にラブソングを2』(1993)に高校生役で出ていました。同じハイチ移民の仲間である男性二人とフージーズを結成。ここでもけっこういいアルバムを出しています。
そして24才でソロ・アルバムThe Miseducation of Lauryn Hill(『ローリン・ヒルの受けた間違った教育』 、1998))を出します。発表後全米ビルボードNo.1ヒットを記録し、翌年のグラミー賞では最優秀新人賞、最優秀アルバム賞など、女性アーティスト史上最多の5部門を受賞。
僕はメアリー・J・ブライジと共演したI Used to Love HimとTo Zionが好きで、後者は授業でも使っていました。I Used to Love Himの方はつまらない男への女からの三下り半を突きつける物語。To Zionはサンタナのギターのイントロで歌われる新人歌手が生まれる赤ちゃんをとるか、歌手としてのキャリアをとるか迷う話です。
でも今回ちゃんとアイフォンで聞き直してみると、ほぼすべての曲のイントロで黒人男性の教師と生徒たちの掛け合いが入っていました。しかもその先生役がラス・バラカという詩人・政治活動家で、あのアミリ・バラカの息子でした。アミリ・バラカはリロイ・ジョーンズという名前で『ブルース・ピープル』や『ブラック・ミュージック』を書いた詩人・活動家でした。1970年代にジャズやブラック・ミュージックをアメリカの文化や黒人の主張として聞く若者にとって重要な論客でした。
そこでやっとMiseducationの意味が正確に分かりました。アメリカの学校が授ける教育の間違いを、黒人指導者が黒人のコミュニティで正すという事でしょう。知り合いの中国人留学生と話した時に、中国の教科書絵には天安門事件の事が書かれていない、でもみんな知っているとの事でしたが、教科書≒教室での情報しかない人々もかなりいるのではと思います。でもそれは程度こそ違え日本でも同じです。教育は支配者が国民をコントロールする装置でもある訳ですから、支配者に都合のいい情報を教えて操作する。でも一応の民主主義国家である日本では、あまり優秀とは言えないけれどメディアの情報もあって、政府のお粗末な対応は見えるので、国民はそれを鑑みて判断できる(ような気がします)。
The Miseducation of Lauryn Hillではローリン・ヒルのどすの効いた同時に知的な低い声と曲の良さがポイントですが。それと僕とペンシルヴァニア大学英文科の同窓の(と言っていいのだろうか少し疑問ですが)ジョン・レジェンドがEverything Is Everythingでピアノを弾いています。写真のアルバム・ジャケットも素朴で、でもアルバムの意図を象徴しているようないい感じです。