時代小説の文学度

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 テレビで『蛍草 菜々の剣』が去年から今年にかけてNHKで放映されています。主演はNHKの朝の『なつぞら』で広瀬すずの妹役の清原果那。原作『蛍草』は1951年生まれの葉室燐。このほぼ同時代の作家は、佐賀の架空の藩を舞台とした『蜩ノ記』で2012年直木賞を受賞しました。佐賀が舞台なので、昨年はじめて行っただけの経験ですが、小崎とか鹿島とか武雄とか地元の地名が出てくると、産物や温泉の名前と関連して楽しい。

 どちらかという敗者と弱者を主人公とした作品が多いかな。弱い者、負けた人たちのその人としてのあり方や復活を描き続けたように思えます。深いわけではないけれど、浅くもない。その辺りが読みやすくて、それなりの読後感もあり。しかしほかの同世代の作家を読んでみると比較したりもします。

 でもみんな遅咲きと言うか、歴史小説や時代小説というのは、書くのに、書き始めるに時間がかかるのか。大人と言うかオジサンにならないと書けないジャンルなのか。単に時間だけでなく、それなりに歴史的な資料などを読み込めるようにならないと書けないものなのか。それらすべての総合的な理由なのだと思います。

 1953年生まれの乙川優三郎。『五年の梅』で山本周五郎賞、2002年 『生きる』で直木賞。武士やその妻、家督を継ぐための養子などの、武家社会や男社会、身分社会で生きる事の屈託が葉室燐よりはもう少し詳しく描かれます。それが葉室燐を20冊以上読んできた後では、少し読みずらい。でもゆっくり読むとけっこう深い。すっと先へ先へと読めない分、考えながら書かれている事の深さを了解するようになる(ような気がします)。

 で次に1948年生まれの青山文平を読むと乙川優三郎よりももう少し読みずらい。『鬼はもとより』で大藪春彦賞受賞。2015年『つまをめとらば』で直木三十五賞受賞のこの作家の少し面倒な、一読してこの短編は何を言っているのだろうと分からない短編もあり、コロナで逼塞している老人の頭脳の老化が進んだかと怯える。でも葉室燐~乙川優三郎~青山文平と、どの作家もいいけれど、ちょっとずつ読みずらさが増していて、それは単純には言えないけれど、文学的に深度を増していると今のところ言っておこう。

 写真は最近気に入っている西のぼるの表紙。昭和21年生まれの能登在住の画家・イラストレータ―です。歴史小説の挿画や表紙が多いようです。明るくて、でもデッサン力や画面の構成力もあって好きです。