スピリチュアル/フォークロア/郷愁

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  ヤン・ガルバレクIn Praise of Dreams(2003)を気に入って聴いています。ヴィオラとドラムのトリオ。ガルバレクはソプラノとテナー・サックスの他にシンセサイザーとサンプリング・マシーンを使用して、かつパーカッションも担当。ドラムもエレクトリック・ドラムも併用らしいので、トリオとは思えないような多彩な色を見せてくれます。

  タイトル曲がフォークロア的なメロディがスピリチュアルな雰囲気で、かつ郷愁を誘う。これは都会ではなく北欧の自然を連想させるような、でも北欧だけでなく普遍的な自然と言えるかも。それと時にガルバレクのサックスの情熱的な語りをヴィオラが優しく受け止めるようで、一つの曲の中で動と静とが一体になっていて面白いです。

ガルバレクって1947年生まれなので僕と5才しか違わないんですね。と言うのは20代から聞いているので、10才くらいは年上と思い込んでいました。14才の時にラジオで聴いたッコルトレーンの「Countdown」に衝撃を受け、サックス奏者を目指すと書いてあります。確かにはじめの頃はフリーでアヴァンギャルドな演奏もありました。

 1960年代の終わり頃から、ボボ・ステンソン等北欧のミュージシャンらとレコーディングを重ねています。1970年代後半はキース・ジャンレットとヨーロピアン・クァルテットのサックスをやっていました。

 その後は1960年代のコルトレーンの影響を受けたフリージャズを基調としながらも、どこか北欧的な空や自然を連想させるような透明度の高いサウンドでした。アドリブも北欧のフォーク・ソングのメロディを引用したような、多くを語らないで深さを感じさせるミニマルなサウンドと言えます。

で、その後のインド音楽といったエスニック的な要素が加わったのが、今回のアルバムの様に聞こえます。がその前にビル・エバンスのアルバムの中であまり評判の良くない『リビング・タイム』(1972)のジョージ・ラッセルとの関係。僕のようなふつうのジャズ・ファンにとっては頭でっかちでつまらないと思われがちですが、1970年代ヨーロッパに渡って、ガルバレクたちに影響を与えたようです。

 1950年代のニューヨークに戻るとギル・エバンスのアパートにマイルスやマックス・ローチジェリー・マリガンジョージ・ラッセルなどが集まってジャズについて議論をしていたようです。ここでの和声にとらわれない音楽の方法がギルとマイルス、マイルスのモード奏法につながるようです。ギル・エバンスのアパートって言えば、ジョン・スコフィールドの1985年のStill Warmに入っているGil B643はギル・エバンスのアパートの部屋番号らしいですが、ニューヨークのジャズ・ミュージシャンの教室のような役割を果たしていたようにみえます。

 で無理なこじつけではなく、ガルバレクの奏法には出自であるノルウェーの風土、ジャズ・ミュージシャンのスタートとしてのコルトレーン、そしてジョージ・ラッセルクロマティック理論?≒モードなどを自分流に統合したというか。言い換えるとガルバレクの音楽には、フリー ⇔ モード × 北欧的メロディ + 他のエスニック音楽の要素があるとまとめられるかな。

い い音楽なので、スピーカーに向かってちゃんと聞いてもいいし、何かしながらBGMのように聞き流しても心地よい。効率のいい音楽とも言える。映画のサウンド・トラックのようにも、レベルの高い環境音楽の様にも。

写真はこちらの方がいいので?まだ届いていないRites(1998年)です。アルバム・タイトルは英語のままですが、曲名は「聖なる儀式」と余計な説明を加えたような。