リトル・リチャード、ゲイ/ブラック・パワー

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 リトル・リチャード「トゥッティ・フルッティ」(Tutti Frutti)を歌うパット・ブーンの映像を見た時、白人ミュージシャンのLove & Theft(アメリカの黒人文化を白人が愛しつつ盗むという事について論じた有名な本)だなぁと強く印象付けられた事を覚えています。ネクタイを緩めて歌うcroonerのパット。スムースなきれいな歌声の白人歌唱(croon)が伝統のポピュラー音楽の世界に、シャウトする黒人が新しい価値観を持ち込んだのがロックン・ロールのはじまりでした。

 僕は最初リトル・リチャードをロックン・ロール初期のミュージシャンと思って聞いたら、それはゴスペルとR&Bと言った方がいい歌い方でびっくりしました。しかも細い口髭のメークしたおっさん。弾きながらピアノをぐいぐいと押していくようなパワフルな演奏。バックはジャズのコンボみたいに管楽器が勢揃いしています。

 1953年Rock around the Clockで中ヒットし、映画『暴力教室』(Blackboard Jungle)に使われ大ヒットした白人バンド、ビル・ヘイリーとザ・コメッツ。小太り中年?のビルはカントリー&ウェスタンとも言えそうです。一方ではチャック・ベリーのようにブラック・ウェスタンという呼べそうなミュージシャンもいて、アメリカ文化は白人×黒人、宗教×世俗の混交/浸透が進んだ第2次大戦後の1950年代と文化的にはくくれそう。この辺りコロナがなくて授業があれば学生に説明できるのですが。

 サム・クックとの写真はイギリスでのライブで共演した時のもので、crooner的な唱法もできるサムと、黒人性むき出しのリチャードの黒人文化のスターとしてのあり方は、アメリカ文化における理解と受容と流通に関する一つのモデルのようで面白い。

 つまり黒人文化の中でも、白人文化と接している部分/時と場によって黒人性の表出が加減されているとか。リトル・リチャードの場合は、ローランド・カークの盲目の黒人の場合と少し似ていて、異形のアーティストのパワーがすごくて少し怯んで恐る恐る聞いていたのですが、よく聞いて見るとその音楽性にも目が(耳が?)向いて理解できるような気がします。